研究課題/領域番号 |
16K21075
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
北口 公司 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (50508372)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 食物繊維 / 大腸炎 / ペクチン |
研究実績の概要 |
水溶性食物繊維の一種であるペクチンは,抗炎症作用を有することが報告されている。この抗炎症作用は主に腸内細菌に資化されることで産生される代謝産物を介することが判明しているが,一方で,ペクチン自体が免疫担当細胞に作用する可能性も示唆されているが,その詳細な作用機序は不明である。これまでの研究により,ペクチンは小腸パイエル板のCD11c陽性細胞に作用し,Toll-like receptorシグナルを負に制御している可能性を見出した。さらに,その抗炎症作用には,ペクチンの側鎖が必要不可欠であることも判明した。本研究では,ペクチンを摂取した際の抗炎症作用機序をペクチンの化学構造と免疫細胞機能の両面から調査し,炎症性腸疾患に対する予防・治療効果を検討した。 ペクチンの由来植物により側鎖構造が異なることが報告されている。そこで,シトラス,オレンジ,シュガービート由来のペクチンを含む飼料を給餌したマウスにDSSを投与し,大腸炎の病態を解析した結果,オレンジ由来ペクチン給餌マウスでは,大腸炎の症状が抑制された。一方,シュガービート由来ペクチン給餌マウスでは大腸炎の症状が悪化した。さらに,シトラス,オレンジ由来のペクチンを給餌したマウスに2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)を投与し,大腸炎を誘導したモデルでもオレンジペクチンが腸炎の症状を緩和した。ペクチンを給餌したマウスの糞中の短鎖脂肪酸の生成量は,シトラスとオレンジで同程度であったことから,この大腸炎保護効果にはプレバイオティクス効果以外の機序が存在している可能性が示唆された。また,TNBS誘導性の大腸炎では複数の免疫応答により腸炎が誘導されると考えられていることから,ペクチンが特定の免疫細胞に作用し,炎症を誘導する経路の一部を抑制している可能性が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. ペクチンの化学構造の差異が炎症の抑制に重要であることが明らかになりつつあり,その現象を解析するためのin vivoのモデルが利用できることは,今後の研究を進める上で有用である。 2. 大腸炎病態の形成に保護的に働くオレンジペクチンと増悪化させるシュガービートペクチン,影響を及ぼさないシトラスペクチンのそれぞれ効果の異なる3種のペクチンが明らかになった。今後,抗炎症活性構造を同定する為に重要な知見が得られたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ペクチンの側鎖が腸炎の保護に重要である知見が得られつつある。今後は腸内細菌の関与を調査するため,抗生物質を投与した除菌マウスでも同様の腸炎保護効果を示すのかを解析する予定である。また,シトラス・オレンジ・シュガービート由来の側鎖を精製し,免疫細胞を用いたin vitroでの解析を行うことで,ペクチンが作用する細胞や分子,シグナル経路を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬購入の際にディスカウントキャンペーンを利用することで試薬代が若干節約できた。次年度の生化学用試薬代に充てたい。
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