研究課題/領域番号 |
16K21077
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
佐藤 浩平 静岡大学, 工学部, 助教 (30756705)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ペプチドチオエステル / タンパク質化学合成 / ペプチド固相合成 |
研究実績の概要 |
酵素反応は温和な条件下で選択的に進行するため、合成化学分野においては高い官能基選択性・立体選択性を利用して合成工程短縮や不斉合成等への適用が進められている。酵素反応の合成化学的応用を強力に推進するためには、基質スペクトル拡大や新奇反応様式開発は喫緊の課題である。従来、酵素の高機能化を指向した試みは主にタンパク質工学的手法が利用されてきたが、調製可能な誘導体は天然アミノ酸の範疇に制限される。そこで、モデル酵素としてフルクトース-6-リン酸アルドラーゼ(FSAA)を選択し、天然アミノ酸構造に束縛されず任意の構造を容易に導入可能なタンパク質化学合成法を基盤とした人工酵素創出に取り組むこととした。昨年までにFSAA一次配列をFr1(1-33)、Fr2(34-61)、Fr3(62-94)、Fr4(95-124)、Fr5(125-159)、Fr6(160-178)、Fr7(179-220)の7つに分割し、それぞれの固相合成法を検討した。Fr5(125-159)のチオエステル体合成をペプチドヒドラジドとして合成することとしたが、N末端チアゾリジン(Thz)含有チオエステルをヒドラジドから合成することはできないと報告されていた。そこで、Thz含有ペプチドヒドラジドから対応するチオエステルへと変換可能な方法論の開発に取り組んだ。種々条件検討の結果、トリフルオロ酢酸溶媒中、m-クレゾール、チオアニソール存在下亜硝酸ナトリウムを作用させることで、Thz構造を保ったままヒドラジドからチオエステル体へと変換可能なことを見出した。現在、本手法を適用し、FSAA合成達成に向け検討を加えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
FSAA合成を進めるにあたり、Fr5(125-159)に相当するN-Thz含有ペプチドチオエステルを合成する必要があった。しかしBoc法による直接合成、側鎖アンカー法による合成いずれにおいても満足いく収率で所望のペプチド鎖を得ることはできなかった。予備検討の結果、Thz欠損ペプチドであればペプチドヒドラジドを前駆体としてチオエステルへ変換することでFr5(125-159)に相当するペプチドチオエステルを合成可能なことが示唆された。しかし、N-Thz体に本手法を適用すると、ヒドラジド活性化条件下Thzが分解することが報告されていた。そこで、N-Thz含有ヒドラジドに適用可能な新規ヒドラジド活性化条件の探索を進めたところ、トリフルオロ酢酸溶媒中、m-クレゾール、チオアニソール存在下亜硝酸ナトリウムを作用させることで、Thz構造の分解を抑えつつチオエステル体へと高効率で変換可能なことを見出した。このような経緯から当該研究課題はおおむね順調に進展しているものと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
予備的検討として、合成済みのペプチド鎖をnative chemical ligation(NCL)により縮合したところ縮合生成物の精製過程で困難を伴うことが明らかになりつつある。そこで、今後の研究推進の方向性は次の点に重点を置く。すなわち、固相担体上に固定化したペプチド鎖に対して順次NCLを行うことで、複数ペプチド鎖を途中の精製無しに縮合していくことを検討する。複数ペプチド鎖の効率的縮合法を確立した後にFSAA完全化学合成に向けた検討を加える予定である。
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