成体哺乳類の中枢神経系の損傷部位では、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(chondroitin sulfate proteoglycan: CSPG)が細胞外に異常蓄積することで、軸索の再伸長に対し障壁となるグリア性瘢痕(Glial scar)を構成する。このCSPGのCS鎖は、再伸長を試み、Glial scarを貫通しようとする軸索の末端部においてPTPRσにより受容される。その結果、先端部にはdystrophic growth cone、またはdystrophic endballと呼ばれる奇妙な形態が出現し、軸索伸長は阻害される。つまり、dystrophic growth coneは損傷神経軸索の病態であり、その形成メカニズムの理解は非常に重要であるが、その理解は乏しい。 そこで我々は、dystrophic growth cone形成に関わる細胞内イベントを理解するために検証を進めてきた。その中で、オートファジーの中断それに付随するオートファゴソーム蓄積が関与することを見出した。 本研究では、これまでにdystrophic growth cone内部のオートファゴソーム蓄積が、in vivo実験系においても観察できた。オートファゴソームとリソソームの融合を担うSNAREタンパク質の遺伝子ノックダウンによりdystrophic growth cone形成が惹起されることも確認できた。また、糖鎖シグナルとオートファジー中断を繋ぐ分子の探索では、CS鎖の受容体であるPTPRσの脱リン酸化の標的分子としてコータクチンの同定に至った。さらに、神経細胞において、PTPRσ脱リン酸化酵素活性を欠損した変異体を発現させると、dystrophic growth coneをレスキューした。これらの結果については、Nature chemical biology誌に投稿・リバイズ中である。
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