本研究の目的は、ゲノムの安定化維持機構の破綻により発症する遺伝性疾患患者から、新規の疾患発症関連遺伝子を同定することである。ゲノム安定化維持機構の破綻によって発症した遺伝性疾患患者の主徴の一つとして小頭症が知られている。そこで、小頭症患者の次世代ゲノム解析を実施した結果、DNA二本鎖間架橋の原因となり得るアルデヒドの代謝関連酵素に変異を見出した。当該患者は小頭症、低身長、精神遅滞、汎血球減少症を示し、臨床像から、汎血球減少症を主徴とするファンコニ貧血、もしくは低身長、小頭症、特徴的な顔貌ならびに造血不全を示すブルーム症候群が疑われていた。次世代ゲノム解析を実施したが、上記遺伝性疾患の発症に関連する既知の遺伝子変異は同定されなかった。しかしながら、これら患者に共通してアルデヒド代謝関連酵素に機能喪失を伴う変異が同定された。さらに興味深いことに、当該患者は、東アジア人集団に高頻度に見られる一塩基多型を同時に保有していることから、本疾患の発症には、二遺伝子同時変異が関与していることが強く示唆された。最終年度では、当該遺伝子の細胞内での機能を明らかにするため、患者由来の細胞を用いて細胞表現系解析を実施した。また、患者細胞で見られる表現系が一般的かどうかを検討するために、ゲノム編集技術により、当該遺伝子に変異を導入した細胞を作製し検討を行った。さらに、個体レベルでの機能を明らかにするために、ゲノム編集技術を用いて疾患モデルマウスの作製を実施した。研究期間全体を通じ、小頭症患者から新規遺伝子変異を同定するためのスクリーニングを実施し、候補となり得る遺伝子の絞り込みに成功し、機能解析まで実施することができた。本研究は、ゲノム安定化維持機構の破綻により引き起こされる遺伝性疾患の発生機序の解明に貢献したと考えられる。
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