環境要因に応答して異なる二つ以上の表現型を示す現象は表現型多型と呼ばれる.社会性昆虫であるシロアリのカースト分化もその一例である.カースト分化において,幼若ホルモン(JH)が重要な役割を担うが,このホルモンが発生の切り替えを可能にする分子発生機構については不明な点が多い.本研究ではJH量の上昇によって起こる兵隊分化に注目し,JHの下流で働く遺伝子の機能の解明を目的とする.本年度もタカサゴシロアリを材料に,以下の解析を行った. 兵隊への分化はJH類似体投与によって人為的に誘導でき,必ず前兵隊と呼ばれる前段階を経る.昨年度までに,Muscle segment homeobox(Msh) 遺伝子が前兵隊の形態形成を制御することを明らかにしていた.Mshのノックダウンによりワーカー様及び兵隊様の形態を持った前兵隊になった. 本年度はMsh以外の兵隊分化に関わることが予想される遺伝子の探索を行った.その結果,tolkin遺伝子が,前兵隊の形態形成を制御することがわかった.この遺伝子は前兵隊分化過程(つまり,高JH量)で高発現しており,脳や前胸腺と思われる器官で発現していることがわかった.前胸腺での発現は,既知のエクダイソン合成遺伝子の発現部位との結果と合わせて検証する必要がある.本研究により,tolkinはJHのシグナルを脳や前胸線に伝達する過程に機能していることが示唆される. この他にもMshとホルモンのシグナル伝達に関わる遺伝子との関係を明らかにするため,JHやエクダイソンのシグナル伝達に関わる遺伝子の機能をRNAiによって調べた.そのうち,成虫化に関わるE93が前兵隊の形態形成に関わることを示唆する結果を得た.しかし,Mshとの関係は,不明である.
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