本研究では、高分子鎖の配向と静電的分子間相互作用を利用することで、透明高分子フィルムの弾性率および引張特性を向上させることを目的とした。各年度の実施内容、および研究成果の概要を説明する。 H28年度は、高分子鎖の配向による弾性率への影響を調べたるため、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル(PEMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)の延伸フィルムを作成し、引張弾性率の異方性を評価した。さらに、複屈折測定から見積もった配向度と弾性率の関係を調べたところ、両者には線形関係があることが判明した。また、高分子側鎖が大きいほど、延伸方向、垂直方向の弾性率の比が増大することが示された。 H29年度は、リチウム(Li)塩添加およびグラフト鎖導入によるPMMAフィルムの引張特性への影響を検討した。通常、PMMAは降伏点の手前で破断し、脆性を示すが、Li塩添加により延性を示すことが判明した。赤外分光測定の結果から、引張特性の向上はLiイオン-カルボニル基間の静電相互作用が関係することが示唆された。さらに、ポリエチレングリコール(PEG)をグラフトしたPMMA(PMMA-graft-PEG)にLi塩を添加したところ、ガラス転移温度は変化せず、延性を示す材料が得られた。 H30年度は、前年度までの高分子フィルムの引張強度向上のメカニズム解明のため、複屈折-引張試験を実施した。PMMA、PEMAの延伸フィルム、およびLi塩添加PMMA(PMMA-graft-PEG)フィルムについて引張試験を実施し、複屈折と応力の同時測定を行った。得られた結果に対し、修正応力光学則を適用したところ、延性を示すフィルムについては、降伏点近傍から分子鎖の配向が進むことがわかった。さらに、破壊理論を用いた考察により、クレーズ形成応力の低下が脆性高分子の延性化の要因であることが示された。
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