国内の主要な湖沼において、従属栄養性細菌に分解されにくい難分解性溶存有機物(R-DOM)が増加、蓄積しているとの報告があり、湖沼の炭素循環や今後の有機物管理を考える上で、湖沼有機物の起源や化学的特性、時空間的変動を理解することは極めて重要である。本研究は、湖沼の細菌群集が産出する難分解性有機物に着目して、その化学的描像を究明するとともに、環境動態の解明を目指すものである。 平成30年度は、琵琶湖における難分解性溶存有機物(R-DOM)の化学組成と環境動態を分子レベルで解明するため、琵琶湖溶存有機物(DOM)(0.5m、60m)と琵琶湖の主要な流入河川水中DOM(安曇川、野洲川上・下流)の高分解能質量分析計(FT-MS)による精密質量分析を行った。さらに、モデル基質(グルコース、グルタミン酸ナトリウム)、ラン藻類(ミクロキスティス)等に対する生分解性試験を実施することで、微生物(群集)が産出する有機物を実験室内で調製し、FT-MSによる網羅的な有機物組成解析を実施した。生分解性試験で使用した植種は、微生物株(アルファプロテオバクテリア綱、ベータプロテオバクテリア綱)と琵琶湖微生物群集であった。各々の微生物(群集)が産出した溶存有機物を固相抽出した後、FT-MSによるプロファイリングを実施した結果、琵琶湖水のみで検出されたDOM成分は、琵琶湖溶存有機物(DOM)の約4割を占め、残りの約6割は流入河川DOMまたは微生物が産出した有機物であった。また、微生物(群集)が産出した有機物が琵琶湖DOM全体の34%を占めることが明らかとなり、琵琶湖DOMの生成経路の一つとして微生物群集の機能と役割が重要であることが示された。一方で、河川を経由して琵琶湖に流入する陸域由来DOM成分は、琵琶湖DOM全体の47%を占めており、陸域由来DOMの寄与も決して少なくないことを明らかにした。
|