研究課題/領域番号 |
16K21107
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
渡邊 幸子 自治医科大学, 医学部, 助教 (80770619)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 免疫 / B細胞 / B-1細胞 / IL-10 |
研究実績の概要 |
これまでの研究結果から、Small Gタンパクの1つであるRap1の活性制御に関わるSPA-1遺伝子を欠損するマウス (SPA-1 KOマウス) は、老化とともに白血病や自己免疫疾患を発症することが知られている。また、申請者はこれまでにSPA-1 KOマウスの腹腔内には特定の細胞集団が存在しないこと、および、それらの細胞のIL-10産生能が低下していることを明らかとしてきた。IL-10は炎症反応を抑える液性因子であることからも、SPA-1 KO マウスでは炎症の抑制機構に何らかの異常が生じており、その結果、様々な疾患を発症することが示唆される。また、腹腔内でIL-10を産生する細胞として、B-1細胞が知られているが、SPA-1 KOマウスで欠損する細胞集団はB-1細胞と類似しているものの、発現する細胞表面分子が一部一致しない。そこで申請者は、この細胞集団を新規B-1細胞サブセットと考え、この細胞の特徴やこの細胞による抗炎症機構を解明すること、特にSPA-1を介した分子メカニズムを明らかにするということを目的として、解析を進めている。今後は、マウスへの細胞移入実験や抗体投与等を行い症状の改善を試みる予定である。 本研究では、SPA-1 KOマウスを用いることにより、これまで知られていないSPA-1による炎症反応の制御機構を明らかにすることが可能である。また、Rap1は細胞の接着や遊走に関わる分子であり、がんの転移との関連等が研究されている。これらの研究は、適応免疫系で働くリンパ球系細胞を対象としている。しかし本研究では、自然免疫系に属するB-1細胞と類似した細胞に焦点をあて、Rap1関連分子の炎症反応への関与を明らかにするという点においても他の研究と異なり、その意義は大きいと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、新規B-1細胞サブセットが実際にIL-10を産生することを確認している。また、セルソーターによる新規B-1細胞サブセットの回収を試み、PCRやFACS解析の結果からその特性および機能に関する興味深い結果を得られている。さらに、腹腔のB-1細胞は、成長の過程で自己増殖をすることによりその数を保つことが報告されていることから、野生型マウスおよびSPA-1 KOマウスそれぞれの若齢マウスの腹腔細胞の解析を行った。その結果、SPA-1 KOマウスのみならず、野生型マウスにおいても新規B-1細胞サブセットが存在しないことが明らかとなった。すなわち、新規B-1細胞サブセットは成長の過程で出現し、SPA-1 KOマウスではその分化能に異常が生じていることが示唆される。現在、新規B-1細胞サブセットが存在しないRag2 KOマウスへの細胞移入実験を試み、分化能の異常の有無をin vivo で解析している。 以上のことから、本研究課題に関しては、おおむね順調に進捗しており、当初の研究計画も達成している状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
前年度に引き続き、in vitro での解析を進め、新規B-1細胞サブセットで特に産生の高かったIL-10の産生に関わる転写因子や細胞の分化に関わる転写因子など、解析する転写因子の候補を絞る。そして、野生型マウスの新規B-1細胞サブセットをセルソーターにより回収し、転写因子の発現をリアルタイムPCRにより解析する。また、発現の高かった転写因子がSPA-1とどのような相互作用をしているのかについても解析する。以上の解析より、新規B-1細胞サブセットによる抗炎症機構の分子メカニズムを明らかにする。 続いて、新規B-1細胞サブセットが生体内で他の細胞とどのような相互作用をしているのかを明らかにする。また、炎症・抗炎症のバランスを整えることによる治療効果についても検討する。具体的にはSPA-1 KOマウスの他、意図的に炎症を引き起こしたマウスに、新規B-1細胞サブセットを移入し、脾臓や胸腺、腸管といった他の免疫組織への影響を解析する。その際、細胞数や炎症性物質の産生量などを指標にすることにより、新規B-1細胞サブセットが抗炎症作用を持つことを評価する。
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