研究課題/領域番号 |
16K21108
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
狩野 文浩 京都大学, 野生動物研究センター, 特定助教 (70739565)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | アイ・トラッキング / 心の理論 / 誤信念課題 / 類人猿 / 認知 |
研究実績の概要 |
本年度は、類人猿(ボノボ・チンパンジー・オランウータン)を対象として、他者の心の理解の研究を行った。 先行研究においては長く、類人猿は「心の理論」を持つものの(他者の直接観察することのできない心的状態を理解する)、他者の「誤信念」(現実の状況に反する信念)を理解できないと考えられてきた。そこで、幼児の先行研究で最近用いられることの多い簡易化された予測的注視の誤信念課題を類人猿用に改変し、類人猿の誤信念理解について調べた。 具体的には、寸劇を撮影し、その動画の役者の行為にたいする予測的な注視反応を記録した。アイ・トラッキングを用いて、41個体の類人猿(ボノボ、チンパンジー、オランウータン)を対象にテストを行った。動画のおもな内容は以下のとおりである。まず役者Aが物体Aを取ろうとしている。そのときに、役者Bがあらわれて、物体Aを奪い取り、それを同じ見た目の2つの箱の一つに隠す。その後、役者Aはその場からドアの向こうに立ち去る。役者Bは役者Aが見ていないときに、その箱の中から物体Aを持ち去るか(条件1)、別の箱に移動してから持ち去る(条件2)。その後、役者Bは立ち去り、役者Aが戻ってくる。役者Aは2つの箱に手を伸ばし、どちらかを取ろうとする。このとき、役者Aは物体Aが移動したのを見ていなかったから、一部始終を見ていた実験参加者(類人猿)は、役者Aの誤信念を理解していれば、役者Aが最後に物体Aを見た場所に手を伸ばすと予測し、そこに目を向けるはずである。結果、2つの条件において(つまり、物体が最後にあった場所が異なるにもかかわらず)、類人猿は役者Aの行為をそのとおりに予測した。 ヒト以外の霊長類にも基本的な「誤信念」理解があることが本研究ではじめて示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の誤信念理解の研究は、米雑誌Scienceに掲載され、年末には、同誌が選ぶ10大ブレークスルーに選定された。この研究は、申請者自身が世界に先駆けて行った類人猿のアイ・トラッキング研究の最新の成果であり、また、これまでの自身の知識と結果を総合して行ったものであることから、自他共におおきく評価できる。今年度は、この論文に加えて、今回の成果とこれまでの成果をまとめたレビュー論文も発表した。一連の論文に対する世間の反応は好意的で、New York Time, Science, Nature, Scientific American, New Scientistなど、海外各種メディアで取り上げられた。また、他の研究者から、次世代のスタンダードとなる方法を確立してとして、論文を好意的に評価したコメントも発表された。一方で、研究の結果に対する批判的な解釈も提唱され、現在はその批判に対処するための研究を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度発表した論文の中で、特に議論の焦点となっているのが、類人猿が他者の「誤信念」を理解して行為の予測を行ったのか、他者の表面的な特定行動パターンを学習して行為の予測を行ったのか(「役者は対象物を最後に見た場所を探しに行く」というルール)、という点である。この点をテストするために、「誤信念」を異なるやり方で導入する課題が必要である。たとえば、対象物の位置を移動するだけでなく、対象物の種類を変えることで「誤信念」を導入する。 また、次年度は、上記の研究に加えて、アイ・トラッキングを用いた記憶の研究、サーモカメラを用いた感情移入の研究も進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度におこなった研究では、既存の物品を利用すること、また、当助成金とはことなる財源による出張が多かったため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は、特に後期に実験に必要な機材の購入が多くなると予想される。
|