研究課題/領域番号 |
16K21108
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
狩野 文浩 京都大学, 野生動物研究センター, 特定助教 (70739565)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 類人猿 / 鳥 / アイ・トラッキング / 心の理論 / 集団行動 / ナビゲーション |
研究実績の概要 |
Krupenye, Kano et al. (2016, Science, co-first/ correspondence) では、類人猿が現実とは異なる状況を信じている役者の行動を、その「誤信念」に基づいて予測できることを示した。 ただし、この証拠からは、類人猿がそのような予測を、(ヒトのように)他者の誤信念をそのようなものとして直接理解しているのか、それとも連合学習のようなより単純なメカニズムによって行っているのか明らかでなく、その点を検証するべく、研究を行った。今年度行った研究では、色や形など単純なパターンの連合学習によって(つまりなんらかの社会的な理解に基づくのではなく)、結果が説明されるのではないかというHeyes(2017)の指摘を検証するべく、オリジナルな動画を色形を極端に単純化した統制条件を行った。結果はHeyesの指摘に否定的なものであった。
また、類人猿の社会的注意(アイ・コンタクトや他者の行為に対する注意)に関して、類人猿種間での差と種内個体差の両方があることを見出し、それを論文として発表した。
平成28年4月から平成29年9月まで英国オックスフォード大学にて在外研究を行い、ハトの視線追跡の技術を確立し、世界ではじめて飛行中の鳥の頭の動きを記録することに成功した。ナビゲーションと集団行動時における視線の役割を明らかにした。鳥は視線を動かすときおもに頭を動かすから、頭の動きを追跡することで視線の分析が可能になる。ハトは飛行中には基本正面を向くが、ナビゲーションの手がかりとなるランドマーク付近や、ペアで飛んでいるとき、とくにパートナーが横に位置しているときに頭の動きを減少させる(つまり注視している)ことが明らかになった。さらに、集団飛行においては、集団のサイズにしたがって、頭の動きがさらに減少すること、つまりより大きな集団にはより大きな注意を払うことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画した、映画的な手法とアイ・トラッキングを用いた、類人猿の心の理論の研究の成果は、関連分野の大きなブレークスルーとして評価された(2016年Science誌が選ぶ10大ブレークスルーに選出された)。Heyesの反論とその返答論文は、Trends in Cognitive Scienceに掲載された。関連する総説論文も発表した。 また、ヒトに近縁な類人猿だけではなく、遠縁ではあるが優れた知能を持つ鳥類の視線計測の手法を世界に先駆けて開発した。今後の応用が期待される。 これらの成果によって、平成29年度には、日本心理学会国際賞を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
映画的な手法とアイ・トラッキングを用いた、類人猿の「誤信念」理解の発見については、連合学習のようなより単純なメカニズムによって結果が説明されるのではないか、という批判が残っている。昨年度はこれに対してコントロール実験を一つ行ったが、今年度も実験をさらに重ねたい。その種の批判に対して、ヒト幼児を対象に行われたアイ・トラッキング課題を類人猿に応用したい。 また、今年度は、熱画像装置(サーモ・イメージング)を用いた類人猿の顔対表面温度の測定による、情動判定の研究にも力を入れたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究のための出張と、一部の実験が3月末から4月末をまたいだため。今年度の会計によって、それらにかかった出張費と物品費を支出予定である。
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