研究課題
本年度の成果としては、まず、アイ・トラッキングを用いて、類人猿の他者のコミュニケーション意図理解について調べた。類人猿は、他者の行動意図をよく理解し、他者のコミュニケーション意図にも優れた理解力を示すことが知られている。しかし、後者の点に関しては、家畜動物であるイヌの方が優れているという意見がある。本研究では、この点を検証するため、(ヒト幼児とイヌがよい成績を示した)教示的仕草の意図理解に関する先行課題を、類人猿用に改変して行った。課題では、ヒト実験者が教示的仕草(目を合わせて名前を呼ぶ、つまり「よく見てね!」というジェスチャー)を示した後に、特定の物体に視線を向けた。このとき、先行研究において、ヒト幼児とイヌは、コントロール条件よりもより強い視線追従反応を示したが、類人猿は、同様の反応を示さなかった。しかし、ヒトによく訓練された類人猿においては、ある程度の傾向が認められた。ヒトとイヌに比べると、類人猿はヒトの教示的な仕草の意図を理解するのが(個体によってはある程度できるものの)全体にやや苦手であることが示唆された。次に、社会的場面における視線反応の基本的な種差について理解を深めるべく、アイ・トラッキング課題を行った。課題では、同種と他種の様々な社会的な行動を映した動画を見せた時の視線反応について、チンパンジー、オランウータン、ボノボ、ヒト、マカクザルで比較した。全体に、類人猿種同士はマカクとヒトに比べて互いに似ていたが、しかし、ボノボはチンパンジーよりも他者の目を見る傾向が強いなど、類人猿種間でも差が認められた。これらの種差には、他者の目を見ることを許容するような個体の気質と、物体操作など複雑な行動に対する個体の理解力の両方が関わっていると考察された。サーモ・イメージングを用いた感情研究に関しては、今年度は総説を発表した。
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PLOS ONE
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