研究課題/領域番号 |
16K21109
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小松 直貴 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (30737440)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生細胞イメージング / mTOR / 細胞周期 / 抗癌剤抵抗性 / 光操作 |
研究実績の概要 |
本研究では細胞増殖シグナルの一つ、mTORC1の活性を光操作することで抗癌剤の一つであるMEK阻害剤存在下における癌細胞の細胞周期進行を人為的に操作することを目的としている。この目的達成のため、平成29年度は以前開発していたmTORC1上流のPI3Kを光で活性化させる系がどの程度mTORC1を活性化可能か検討した。その結果、PI3Kの光操作によるmTORC1活性化は規定状態と比べて高々10%未満であり、血清培養下の細胞におけるmTORC1活性の自発的なゆらぎ(変化幅20-30%)を再現するには、活性化の強度が不足することが予想された。mTORC1をより強力に活性操作するためには、PI3K経路以外のmTORC1活性制御機構を利用した系の開発が必要である。一方でmTORC1活性化機構には十分理解されていない点も多く、活性化機構そのものの解明も必要であると考えた。そこで活性化機構の一つだがその詳細の多くは未解明であるmTORC1ホモ2量体化に注目し、ホモ2量体化の生細胞内可視化プローブを開発した。これまでにホモ2量体化の状態(強度や頻度)に細胞間不均一性があること、2量体化とmTORC1活性に相関があることを示唆する予備的結果を得ている。この結果はmTORC1ホモ2量体化を人為操作することでmTORC1活性化を惹起できる可能性を示唆している。本研究ではmTORC1活性の光操作に伴う細胞周期進行を評価するため、これまでに1細胞追尾・輝度定量プログラムを開発していた。平成29年度はこのプログラムを更に改良し、数十個の1細胞の細胞周期について、その時系列データから統計的にパラメータを抽出することを可能とする新規解析パイプラインを構築した。またその成果について論文発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
現時点ではmTORC1の強力な活性操作系が構築できていない。PI3Kの光操作に基づくmTORC1の人為活性化系は確かにmTORC1を活性化しうるものの、その強度は癌細胞の生理的なmTORC1活性動態の振幅(強度)と比べると半分以下であることが判明した。mTORC1活性動態が細胞周期進行に及ぼす影響を定量解析するという本研究の目的を達成するには、この系では不十分な可能性が高いと考えられる。一方でこの系でどの程度細胞周期進行が促進されうるのか、その評価がまだ行えていない。mTORC1活性の時系列データを細胞周期同様、1細胞レベルで、かつ統計的なパラメータ抽出に必要な多数のデータ数を取得するのに必要な、細胞追尾・輝度定量プログラムの機能拡充も必要である。
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今後の研究の推進方策 |
mTORC1をより強力に活性化できる光操作系を開発する。まずPI3Kの下流かつmTORC1の上流に位置するAktを光操作する系がすでに報告されており、これがmTORC1をどの程度活性化できるのか、検討を行う。またmTORC1ホモ2量体化の人為操作がmTORC1活性化を誘導できるのか、検討を行う。並行して現段階では細胞核局在型の細胞周期インディケータの解析に特化している細胞追尾プログラムについて、mTORC1活性の可視化に用いている細胞質型の蛍光プローブについても細胞周期インディケータ同様に蛍光輝度値を自動定量できるよう、プログラムの改良を行う。その上でmTORC1活性の光操作が癌細胞の生理的条件における細胞周期進行ならびにMEK阻害剤存在下における細胞周期進行におよぼす影響を定量解析する。これにより癌細胞のMEK阻害剤抵抗性増殖におけるmTORC1活性化の意義を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
mTORC1活性の光操作に十分利用できる系の開発が遅れており、このため系を用いたmTORC1活性化の人為操作および細胞周期進行に与える影響の解析を完遂するために助成期間の延長を申請、受理された。延長後の期間においても研究活動に必要な試薬・器具を購入する必要があり、この理由により次年度使用額が生じた。平成30年度はmTORC1活性の光操作系構築に必要な遺伝子工学実験用の試薬購入に充てる。また癌細胞の培養に必要な細胞培養用試薬・プラスチック器具の購入費を当該予算から賄う。さらにmTORC1活性化の生化学的解析に必要な抗体をはじめとする生化学実験用試薬の購入を行う。
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