本研究では細胞増殖シグナルの一つ、mTORC1の活性を光操作することにより、抗癌剤の一つであるMEK阻害剤に感受性を示す癌細胞の細胞周期進行を人為的に制御すること、これによりMEK阻害剤感受性癌細胞に抵抗性を付与することが可能か、検証することを目的としている。この目的達成においては、生きた癌細胞内でmTORC1活性を任意の時系列で操作することが必要である。加えてMEK阻害剤抵抗性の細胞増殖における細胞周期進行とmTORC1活性の動態を同時に生細胞可視化することが必要である。平成30年度は前年度までに引き続き、mTORC1を選択的に活性操作するための方法について検討を行った。その結果、タンパク質の多量体化を促すタグ配列をmTORC1に付加し、その多量体化促進型のmTORC1変異体を培養細胞に発現させることで、mTORC1活性が未発現細胞と比べて10%程度減少することを初めて見出した。続いて、mTORC1の多量体化によるmTORC1不活性化反応の詳細解明ならびにmTORC1活性の光操作の可能性を模索するため、光によりmTORC1の多量体化を促進する実験系を構築した。今後、作製した系でmTORC1活性を実際に選択的に光操作できるか、検証を進める。細胞周期とmTORC1活性の生細胞可視化については、細胞周期インディケータであるFucci(CA)の色変異体作製ならびに、作製したプローブとmTORC1直下のキナーゼS6Kの活性を可視化するFRETプローブの培養細胞への安定発現を行った。さらに細胞周期とS6K活性の多色蛍光イメージングを行うための顕微鏡光学系および培養系の条件最適化を行った。今後は樹立した細胞株を用いて生細胞観察を行い、MEK阻害剤存在下で抵抗性細胞が示すmTORC1活性ゆらぎが細胞周期進行に果たす役割を定量解析する。
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