研究課題/領域番号 |
16K21110
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
金原 大植 京都大学, 経済研究所, 研究員 (60739960)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 内生的成長理論 / R&D / 特許の質 |
研究実績の概要 |
まず,以前より取り組んでいた,単独でも長期的成長をもたらす外生的人口成長とR&Dを単一のモデルで扱う事の出来るモデルに関して,分析可能な設定で必要になる非1次同次の最終財生産関数を分析に用いることを正当化するために必要な仮定について考察した.その結果,最終財部門を中間財を合成する収穫逓減型の合成者と,合成された中間投入物と労働(両者には一次同時性が存在)を用いて最終財生産を行う最終財生産者に垂直分離させ,後者が前者を保有するという設定を置けば正当化が可能であることが得られた. 次に垂直的R&Dと水平的R&Dと外生的人口成長を考慮したモデルを作成した.このモデルでは均整成長経路とともに2周期解などの内生的なR&Dサイクルが存在するが,共に長期的な成長率は垂直的R&Dの水準で決定されること,安定した成長率・技術進歩率とR&D支出の増加トレンドが併存することが示された.この事は補助金などのR&D促進政策により長期的な成長率の向上が図れることを示唆している.このモデルは「完全に内生的な」成長モデルとR&Dサイクルモデルの持つ性質を兼ね備えたものといえる.また制約的な条件下でであるがprocyclicalなR&Dサイクルが存在することも示された. 特許の質に関する関する研究では,促進政策が特許被引用件数にどのような影響を与えたかに関して実証分析を行った.具体的にはIIPパテントデータベースを用いて1999年から2002年までの特許取得数上位千社に関して,1999年から2010年までの年度ごとの特許取得数と特許被引用数を集計してパネルデータを作成し,平成15年度の試験研究費控除制度の拡張の特許取得数,特許被引用件数への影響を差分の差分法で分析した.その結果,控除の対象となる日本企業の特許出願数は増加したものの,特許被引用数は増加せず,政策によって増加した特許の質は低いことが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
相互作用に関する研究に関しては,本来の計画に加えて平成29年度に取り組む予定であった複数の異質なR&Dを考慮したモデルの分析に成功し,その成果をもとにした研究報告がEconometric Society Asian Meetingなど複数の国際学会に採択されるなど,完成の目処が立ちつつある.従ってこの点では計画を大きく先取りする進捗状況と言える. それに対して,特許の質に関する実証分析に関しては,データベースからパネルデータを作成し,差分の差分法を用いた分析を行ったものの,差分の差分法に必要な仮定を素のパネルデータが十分に満たすことが困難なため,分析手法の変更を含めた何らかの方針転換が必要であると考えられるなど必ずしも計画通りに進捗していると言えない.
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今後の研究の推進方策 |
相互作用に関する研究に関しては,今後は次世代の出生率・人的資本を内生化することを試みる.これにより人口規模・人的資本・研究開発の3つの成長要因とそれらの相互作用をR&Dサイクルが人口成長・人的資本形成に与える影響に注目しつつ,一つのモデルで統一的に分析する事を目指す.またこうしたモデルにより,これまで内生的に説明することが困難であった様々な人的資本に関する諸現象,例えば人的資本の過少利用を説明することを目指す. 特許の質に関する実証分析に関しては,分析手法を回帰不連続デザイン(RDD)に変更し,試験研究費控除率が優遇されている中小・ベンチャー企業の申請する特許の質が控除率の低い大企業の特許の質と比較して,どのように異なるかを,それらの分類における閾値周辺の規模の企業に注目して分析する. それに加えて,上述の実証分析で得られた含意を反映したアイデアの質に異質性を持つR&D型内生的成長モデルを構築し,分析を行う.その際,新々貿易理論などでも広く使われているHopenhayn (1990)型の異質性の定義を参考にする.
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