本年度は、研究課題(1)ECAとコンテキストを共有するHAIの分析とモデル化、および、研究課題(2)インタラクティブな視座の分岐を持つHAIの分析とモデル化、のそれぞれについて、前年度までの研究成果を統合し、タスク遂行の相談相手となるECAの開発を目指した。 具体的には、研究課題(1)において開発した、自閉症の療育手法を踏まえた導入インタラクションによる志向姿勢の誘発手法を、研究課題(2)において志向姿勢の誘発・維持に有効であった、役割の異なる複数のECAとのインタラクションにおける、観察によるECAの行動モデル推定と自らの行動に対するECAによる認識モデル検証の循環モデルに適用し、持続性の高いものに拡張することを試みた。検証実験として、「ルートや訪問場所を自由に設定できる旅行計画」と「突発的なトラブルも発生するリアルタイム店舗経営ゲーム」の二つの状況を作成し、実験参加者がECAと協調して課題を遂行する場面を分析した。これにより、ECAに意図を感じる「志向姿勢」の誘発・維持に有効な、随伴的発展機構の実装による視座協創の一例を提案し、志向姿勢の誘発・維持への有効性を検討した。 結果として、(1)の成果である、志向姿勢の誘発を促す導入インタラクションの効果が、(2)の成果である、複数のECAとのインタラクションによる行動モデル推定と認識モデル検証の循環的な促進によって、30分から1時間程度の比較的長期間のHAIにおいても持続できることを示した。志向姿勢が維持できるということは、相談相手が助言を行う場面においては、相手の助言が、一般化された「知識」ではなく、相手が実際に行った「経験」として受け入れられるきっかけを得た、と言い換えることができる。このことから、当初目的とした、創造的課題や探索的課題において相談や議論の相手となるECAの開発を、ある程度達成できたと言える。
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