研究課題/領域番号 |
16K21114
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 美有 京都大学, 医学研究科, 特定研究員 (00756893)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 神経軸索ジストロフィー / 神経変性疾患 / 脳神経疾患 / 疾患モデル / 病理学 |
研究実績の概要 |
本研究では、ENUミュータジェネシスにおいて発見された、若齢時から後肢の歩行異常・運動障害を呈するミュータント系統(KK ラット)に着目した。KK ラットの原因遺伝子の同定と、詳細な病態評価を行うことによって、本系統を新たな神経軸索ジストロフィー(NAD) モデル動物として樹立すること目的として解析を進めた。 1. KK ラットの原因遺伝子の同定:これまでのマッピングによって得られた候補遺伝子から、KK ラットの原因遺伝子kkと、その変異(ミスセンス変異)を同定した。 2. kk 遺伝子のトランスジェニック(Tg)レスキュー実験:野生型kk遺伝子cDNAとCMVプロモーターで構成される導入遺伝子を構築、これをKK ラットの背景系統F344 ラットの前核期受精卵にマイクロインジェクションし、kk遺伝子のTg ラットの作製を試みた。複数ラインを得たものの、それらにおける導入遺伝子の発現レベルが非常に低く、レスキュー実験に供することができないことが予備検討によって分かった。そのため、CRISPR/Casシステムを用いた検討に切り替えることとなった。 3. KK ラットの詳細な神経病理組織学的解析:スフェロイド病変は発症前の3週齢から、脊髄・小脳・脳幹において認められた。脊髄では胸髄及び腰髄の背索を中心に、脳幹では、主に延髄薄束核・楔状束核・副楔状束核に多く局在していた。このことから、KKラットのスフェロイド病変は、既報のヒトや動物、マウスモデルのNAD同様、感覚神経路に主座することが示唆された。さらに、免疫組織化学染色によるスフェロイドの性状解析にも着手し始めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、KK ラットの原因遺伝子を同定できたことに加え、KKラットのスフェロイド病変の分布・経時的変化・性状を中心に、詳細な中枢神経病変を明らかにした。また、次年度実施予定であった、スフェロイドの性状解析にも一部着手することができた。遺伝学的・病理学的解析については、当初の研究計画以上に順調に研究が進展しているといえる。 一方で、Tgレスキュー実験については、実績の概要に記載の通り、CRISPR/Casシステムを用いた検討に切り替えることとなった。KK ラットの原因遺伝子の立証のための解析にはやや遅れが出ているものの、すでに実験には着手している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究で同定した原因遺伝子kkが、KKラットの真の責任遺伝子であることを立証するため、CRISPR/Casシステムを用いた検討を実施する。具体的には、KKラットで同定した点変異を背景系統F344 ラットに導入し、その遺伝子改変ラットの表現型(体重変化、歩行異常・後躯麻痺発症の有無、神経病理組織学的異常の有無など)を経時的に解析する予定である。また、詳細なスフェロイドの性状解析を含めた、KK ラットの神経病理組織学的解析をさらに進める。加えて、同定した原因遺伝子kkによりコードされるタンパク質の、中枢神経系における機能解析も実施予定である。 以上の解析結果より、KK ラットで認められる軸索変性/異常の発症メカニズムを解明し、KKラットを新たなNADモデル動物として樹立することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
上述の通り、KK ラットの原因遺伝子の立証のための実験として、当初実施予定であったTgレスキュー実験からCRISPR/Casシステムを用いた検討に切り替えることとなった。 よって、Tgラット維持のための飼育費用が不要となったため、今年度の執行予算が減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、KK ラットの原因遺伝子の立証のための実験として、Tgレスキュー実験にかわり、CRISPR/Casシステムによる検討を実施する。また、同定した原因遺伝子kkによりコードされるタンパク質の、中枢神経系における機能解析も予定している。これらの実験に必要となる、試薬・動物飼育費用を含めた経費を中心に執行する予定である。
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