研究課題/領域番号 |
16K21117
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大野 博久 京都大学, iPS細胞研究所, 特定研究員 (90612391)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | RNA / RNA-タンパク質複合体 / ナノ構造体 / 分子足場 / 細胞運命制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、ヒト細胞内において分子足場となりうる人工RNA/RNPナノ構造体を構築すること、およびそれを利用して細胞内タンパク質の空間配置を制御し、細胞の機能制御を行うことを目的とする。内在性タンパク質の局在や集合、他分子との分子間相互作用を制御することは、遺伝子発現の調節とは異なる階層で細胞内分子システムを制御することであり、生物学研究における有用なツールの開発や医療分野への応用など、幅広い利用が期待できる。 上記目的を達成するために、当該年度には、RNAナノ構造体をヒト培養細胞内に導入し、その構造体を分子足場として標的タンパク質を集積することを行った。その結果、細胞死誘導タンパク質を集積させて細胞死を誘導することに成功した。さらに、この標的タンパク質の集積を、細胞内在性タンパク質によって競合的に阻害することで、細胞種特異的に細胞死を制御することに成功した。 また、RNA分子デザインにおけるパーツの拡充と、構築可能な構造体のバリエーションの拡張を図り、様々なRNA構造モチーフを利用したナノ構造体の設計・構築も進めている。現在までに、複数種類のリボスイッチ由来のRNA構造モチーフを利用して、特定の低分子存在下で立体構造が変化するナノ構造体の構築に成功している。それらのRNA構造モチーフは動的なナノ構造体や分子足場の設計に利用できると期待される。今後、作製したナノ構造体について詳細な評価を行うと同時に、新たなRNA構造モチーフを利用したナノ構造体の構築も進める予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子足場として特定のタンパク質を集積できるRNAナノ構造体を作製した。このRNAナノ構造体を利用することで、細胞死誘導タンパク質を集積させて細胞死シグナルを発生させ、細胞死を引き起こすことができた。また、この構造体をもとに、幹細胞マーカーとして知られるタンパク質とそれに結合するRNAモチーフを導入し、幹細胞マーカータンパク質の存在下では、細胞死誘導タンパク質の集積が阻害されるようなナノ構造体を設計した。このRNAナノ構造体を細胞に導入したところ、幹細胞マーカーの発現量に応じた細胞死シグナルの発生または抑制が確認できた。このように、細胞内の状態に基づいて機能する分子足場を利用し、細胞の運命制御を行うことに成功した。 また、細胞内分子の多様かつ精密な空間的・位置的制御を実現するために、分子構築におけるパーツの拡充と、構築可能な構造体のバリエーションの拡張を図り、実際にナノ構造体を作製しながら新たなRNA/RNP構造モチーフの探索を進めている。現在までに、特定の低分子に応答して構造変化を示すRNA構造モチーフなど、今後の分子設計・構築における構造部品となりうるRNA構造モチーフが得られている。このようなモチーフを利用することで、細胞内の特定分子の存在によって構造が変化し、それに伴って機能も変化するような分子足場を作製することも可能になると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
デザインしたRNAを分子足場として標的タンパク質を集積させ、細胞死という細胞運命を制御することに成功した。今後は、細胞内分子の多様かつより精密な空間的・位置的制御を実現するために、様々な形態・種類のナノ構造体の設計・構築を行う。またそのために、部品として利用できるRNA構造モチーフの探索を進める。さらに、RNAナノ構造体の細胞内での構築にも挑戦する。細胞内環境では、温度変化を利用したRNAのアニーリング操作を適用できないため、RNAポリメラーゼにより転写されながらデザインされた特定の構造へと自発的に折りたたまれるようなRNAナノ構造体をデザインし、実際に転写共役的に構築できることを確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新規にデザインしたRNAナノ構造体を評価する際に使用する予定であった原子間力顕微鏡が故障し、その修理に時間を要したため、新規なRNAナノ構造体の構築・評価を計画通りに進めることができなかった。また、本年度には、細胞内で転写と同時に折りたたまれ特定の構造を形成するRNA分子を作製することも計画していた。しかし、そのRNAの構造に起因する配列上の制約により、RNAを転写合成するための鋳型DNAの合成が不可能または極めて困難であったため、RNA配列の再設計を行う必要が生じた。これらの理由により生じた未使用額は、新規なRNAナノ構造体の評価の際に必要な原子間力顕微鏡の消耗品や、細胞内構築に向け再設計したRNAナノ構造体の鋳型DNA合成のために使用する予定である。
|