最終年度となる本年度は,昨年度に引き続き,1920年代の英国建築の日本への移入に関する研究および民芸運動の思想面に関する研究を実施するとともに,これまで個別的に発表してきた論考を横断する「非モダニズム」の視点を総括した。研究成果は大きく以下の4点にまとめられる。 1)1920年代の英国建築の日本への移入に関する研究:分離派建築会と建築における「田園的なもの」の関係を探った。蔵田周忠の『近代英国田園住宅抄』および堀口捨己の「建築の非都市的なもの」で「クロイドの藁葺の家」が取り上げられる意味として土着性の翻案について考察した。2)1920年代に展開された民芸運動の思想面に関する研究:分離派建築会と民芸運動の関わりについて当時の田園関連著作,大礼博における「民藝館」に対する分離派メンバーの反応,および瀧澤眞弓設計の「日本農民美術研究所」に対する柳宗悦の反応を整理した。3)世紀転換期英国における「建築」概念の再考:昨年度末に本年度の課題と考えていたウォルター・クレインの思想と作品の解明を進める中で改めて建築と教育の関わりを捉え直す必要性が出てきたため,当時芸術教育論を多数発表していたチャールズ・ロバート・アシュビーの建築観を記述分析した。クレインについての研究は今後の課題として残った。4)「非モダニズム」についての総括:独仏語圏文化学研究会シンポジウム「世紀転換期の装飾と「近代性」をめぐる問題―ヨーロッパ文化論の視座から―」において成果を公表する機会を得て,モリスからアシュビー,ヴォイジーへの展開を整理・発表した。
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