研究課題/領域番号 |
16K21123
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鈴木 裕識 京都大学, 地球環境学堂, 特定助教 (20762272)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 水環境 / 微量有機汚染物質 / ペルフルオロ化合物類 / 前駆体 / 生成ポテンシャル / 化学酸化処理 / 環境動態 / 媒体間移行 |
研究実績の概要 |
水環境中におけるペルフルオロ化合物類(PFCs)と前駆体からのPFCs生成ポテンシャル(PFC-FPs)の存在実態と移行経路の把握を目的として、(1)~(3)を実施した。 (1)代表的なPFCsであるPFOAが高濃度で検出された事例のある京都の某都市河川(下水処理水が水源のほぼ100%を占める)を調査した。その結果、①河川流下過程でPFOAとPFHxAの負荷量増加を確認した。②生成ポテンシャルとして評価された前駆体が底質に移行しやすい傾向が示された。③LC-MS/MSによるMRM分析を用いて未知物質の探索を試行したところ、5:3FTCAと5:2ketoneと考えられるピークの検出に成功した。これらは分子量の大きい前駆体から流下過程で生成したと推察され、5:3FTCAについては底質に蓄積していた。 (2)上記と同じ都市河川において、魚類(n=1)と甲殻類(n=9)を採取(2015年6月)し、PFCsとPFC-FPsを分析した。その結果、PFOAが0.1~172 ng/g-wet (平均値:22.4)、PFHxAが15.8~171 ng/g-wet (平均値:79.0)で検出され、分析した過半数の生物からPFCs自体よりも高含有量の生成ポテンシャルが検出された(PFOA-FP:最大270倍、PFHxA-FP:最大10.7倍)。このことから、PFCsよりも構造が複雑な前駆体は生物に移行しやすい可能性が示唆された。 (3)沖縄(2016年6月)、ベトナム・ダナン市(11-12月)、タイ・バンコク近郊(2017年2月)で調査を開始した。沖縄調査では、魚類(n=22)と甲殻類(n=5)からPFOSが平均値で113 ng/g-wet、その主要な前駆体の一つとして知られるn-EtFOSEが平均値で565 ng/g-wetで検出され、前駆体から生成したPFCsによる水環境汚染の可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)前駆体を含めたPFCsの実環境中での挙動の追跡に成功し、前駆体の一部がPFCsとは異なる化合物に変換し、その状態で他の環境媒体中に存在している可能性を明らかにした。この成果は1編の査読付き論文として掲載された。 (2)調査対象の京都の某都市河川において、水や底質から比較的高濃度のPFOAが検出された結果を受けて生物試料の分析を進めたところ、定量下限値を充分に上回るPFCsとその生成ポテンシャル(PFC-FPs)を検出し、環境試料を用いた動態の検討が可能であることを確認した。さらに、その調査手法をその他3都市域に適用し、研究を進めた。 (3)当初2年目に予定していたベトナムダナン市における予備調査ならびに試料採取を行い、研究活動を開始できた。
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今後の研究の推進方策 |
①初年度の調査で得られた試料の分析とデータ解析を進める。②汚染が懸念される主要な前駆体をターゲットとして、実環境媒体を用いて分解性や蓄積性の試験を行う。③各種前駆体の分解経路の生成物の生成経路を明らかにすることで、PFCsの生成率が高い前駆体や、PFCs以外でも残留性の高い化合物を生成する前駆体を系統的に把握し、総合的な化学物質リスク管理に役立つ知見の提示を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初今年度の実施を計画していた室内実験研究を次年度に行うこととしたため、その実験に関わる物品費の使用額分を次年度に繰り越すことととした。
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次年度使用額の使用計画 |
実環境媒体を用いた生分解性実験や蓄積性試験に関わる物品費の購入を計画している。
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