本年度の研究実績は以下の通りである。 1)日本における初期の風致地区の運用事例として、複数の都市について資料収集を行い、戦前の風致地区の地域ごとの計画的特色を把握した。2019年度も資料収集を継続し、近代日本における風致行政の解明に努めた。その結果、都市計画・公園緑地計画との一体性や観光開発との連携など、景観保全にとどまらない多様な風致行政の運用がなされていたことが明らかになった。 2)戦前京都における風致行政の実態について、京都府行政文書・風致地区関係文書の資料調査と、その内容の分析を進めた。昭和戦前期の京都都市計画風致地区内における許可申請書類を分析資料として、現況変更行為に対する指導内容や許可・不許可の判断を読み取り、風致行政における景観規制・誘導のあり方を把握した。なかでも、大規模な宅地造成に関する風致行政の実態と景観形成・誘導の技術について明らかにした論文を、土木学会論文集D1(景観・デザイン)に投稿した。また、眺望に関わる開発行為許可について、大規模建造物や公共事業による整備などに着目して研究を進めた。この一部については、2019年度中に学会講演集での発表を行った(「戦前期京都風致地区における大規模建造物及び公共施設の風致の維持・創出の実態」谷川陸,山口敬太,川﨑雅史,景観・デザイン研究講演集 No.14,2019年12月)。これらについても、今後完成度を高め審査付論文への投稿を予定している。
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