研究実績の概要 |
(1)研究の目的: ヒトはどのように笑顔を使い,その笑顔はどのように社会的な生活に影響を与えているのであろうか。本研究の目的は,笑顔をもちいた乳幼児と他者とのコミュニケーションの進化と発達を観察と実験から詳細に検討し,その背後にある社会的な認知能力について探ることである。「ヒト乳児における笑顔の初期発達」,「飼育下チンパンジー群れの笑顔観察」,「笑顔の伝播」,そして「表情弁別実験」という4つの視点から笑顔を体系的に理解し,何がヒト固有の能力であり,なぜそのような違いが生まれたのか考察していく。 (2)成果の具体的内容: 「ヒト乳児における笑顔の初期発達」,「飼育下チンパンジーの群れの笑顔観察」,「笑顔の伝播」について,データ収集と成果発表をおこなった。ヒト乳児については家庭にビデオを配付し,睡眠中の自発的微笑と覚醒中の社会的微笑や,母子での「高い高い」の場面の撮影を依頼した。飼育下チンパンジーについては,名古屋市東山動植物園に2017年10月に誕生した乳児2個体を毎週,継続的に観察した。乳児は2歳半となり,社会的な環境の中で多様な場面にいて笑顔を見せていた。それらの進捗について,国内学会での報告をおこなった。 (3)意義と重要性: ヒトにとって日々の生活の中で頻繁に表出し,見る機会のある笑顔は,あまりに一般的であるため,実は謎が多く残されていることはそれほど知られていない。笑顔について進化と発達の視点から探った研究が少ないのが現状である。どのように笑顔を対他者関係の中で使い,それがどのくらい社会関係の維持に寄与しているのだろうか。笑顔を探求することは,ヒトやチンパンジーを含む動物にとって,よりよい環境を築く足がかりとなると考えている。
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