本年度はイエネコゲノムデータ(Felis_catus_8.0)より新たに同定したC1染色体上のRDRS(RDRS C1b)について解析を行った。RDRS C1bはRD-114ウイルスと92%の相同性を示すほぼ完全長のenv遺伝子配列を有しており570アミノ酸をコードしている。現在までに同定したRDRSのうち、RDRS C2aのみがenv遺伝子配列内に15bpの挿入配列を有していることがわかっていたが、RDRS C1bはこの挿入配列から3bp(TGG)を除いた12bpの挿入配列を有していた。RDRS C1b envの周辺ゲノム配列より418bpの3’LTRを同定した。RD-114ウイルス、RDRS配列との比較を行ったところ、RDRS C2aと最も高い相同性(90%)を示し同じクレードに分類された。また、ゲノムデータベース検索によりRDRS C2aと同じ15bpの挿入配列をもつenv配列の座位を新たに同定した。この配列はSU領域のみであるが189アミノ酸と114アミノ酸の2つのオープンリーディングフレームをコードしている。今後これらRDRS全長をクローニングする予定である。 RD-114ウイルスはヒヒの内在性レトロウイルス(BaEV)がイエネコ祖先に感染し別の内在性レトロウイルス(ERV)と組換え反応を起こしてできたものと考えられてきた。近年、ネコゲノム中にRD-114ウイルス様のenv配列を有するRDRSやgag、pol配列を有するERV-DCが複数同定されており、これらの間の組換え反応により、ネコのERVは複雑な歴史を辿ってきたことが示唆されている。本研究で明らかにした新たなRDRSの存在は、ネコのERVの進化過程をさらに明らかにするとともに、ERVを指標としたイエネコの進化の歴史を明らかにする一助となることを期待する。
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