本研究では、“昼行性霊長類にみられる3色型色覚は、薄明環境下で赤色系の食物(果実)を効率的に採食することに優位性がある”という仮説(薄明適応説)の妥当性を、同一種内に2色型色覚と3色型色覚の個体が混在する野生の広鼻猿を対象として検証することを目的としている。本年度は、昨年度に引き続き、コスタリカ共和国のサンタ・ロサ国立公園で野外調査をおこなった。観察対象は人づけされた野生のノドジロオマキザルの3群とした。2色型色覚の個体と3色型色覚の個体の採食行動を昼間と薄明時に観察し、一定時間内のサルによる果実採食の試行回数、成功(果実を飲み込んだ)した回数、失敗(果実を捨てた)した回数を記録し、採食効率を算出した。サルが食べた果実の色を顕在色(赤色やオレンジ色)と非顕在色(緑)に分けて採食効率を色覚型間で比較し、薄明適応説を検証した。薄明時の霊長類の採食行動にかんする研究はこれまでにほとんどおこなわれておらず、本研究は、薄明環境が霊長類の3色型色覚の獲得における適応的環境であった可能性を検討するうえで重要な知見を与えるものである。
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