本年度は、宗教ネットワークに乗って人が移動することに焦点をあて、資料収集・調査を行った。特に、1950年代のマッカへの巡礼に関する資料について、20世紀前半のウルドゥー語で書かれた旅行記などを集中的に収集・読解した。当時、空路が整備されていない中で、南アジアからマッカまで600日以上かけての滞在に関する詳しい記録を分析し、国際会議で発表した。 8月、パキスタン・ラホール市で、パンジャーブ大学オリエンタルカレッジのウルドゥー語学部及び附属図書館にて、20世紀初頭の旅行記の収集を行った。また、私立ラホール経営大学を訪問し、イスラミック・スタディーズの教員と共同研究についての意見交換を行った。同国カラチでは、カラチ大学ウルドゥー文学部図書室及び本部図書館にて資料収集を行った。カラチ大学元ウルドゥー語学部長モイーヌッディーン・アキール教授のご推薦により、市内のイスラーム・リサーチ・アカデミーにて、ウルドゥー語による研究発表を行う機会も頂き、さらにその内容が新聞社から取材を受けた。カラチ市郊外にある市立ハムダルド大学の教員らとも意見交流する機会があり、高等教育におけるイスラーム教育の在り方と、初頭・中等教育における言語問題について意見交換を行った。 アウトプットとしては、国際会議第11回国際宗教観光・巡礼国際会議に参加し、英語での口頭発表をした。研究発表は歴史部会に配置され、先述の宗教ネットワークについて、1950年代後半にパキスタンにおいてハッジ巡礼がどのように共有されていたのかを示すため、同年代の宗教家の記した巡礼記についてまとめた。ヨーロッパを中心に各地から集まった参加者とも交流することができ、特に宗教学とは異なる観光学分野のネットワークを拡張できたことが有意義であった。
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