分子変換反応において、豊富存在元素の有効活用が持続的発展の観点から求められいる。ルイス酸/塩基は遷移金属触媒とは一線を画す反応試剤として興味が持たれるが、精緻な性状調節が難しく、その反応性の制御が課題となっている。本研究では、リン原子周囲にカゴ型の構造制御をほどこすことで、ルイス塩基性の精密制御と活性化法の確立を目指した。以下の観点から、ルイス塩基性と反応性について検討を行った。 (1)カゴ型リン錯体の合成とそのルイス塩基性の調節 5種類のカゴ型ルイス塩基を合成・単離することが出来た。得られたリン錯体をDFT計算、セレン酸化法によって、理論的・実験的にそのルイス塩基性を評価した。構造的要因を明らかにするために、炭素およびケイ素原子を基幹元素としたカゴ型リン錯体を合成した。炭素基幹体よりもケイ素基幹体の方がリン原子周囲の結合角が大きくねじれ、そのルイス塩基性が向上することを見出した。さらに、リン原子周囲にフェニル基・ブロモ基を導入したリン錯体を合成した。置換基の電子的な摂動によってもそのルイス塩基性が変化することを明らかにした。また、キラルなビナフチルを用いることで不斉カゴ型リン錯体の合成にも成功した。 (2)カゴ型リン錯体を用いた反応探索 合成したカゴ型リン錯体を鈴木-宮浦反応の配位子として展開を試みた。通常のトリフェニルホスファイトよりも高活性を示し、汎用的に用いられるトリフェニルホスフィンと同程度の活性を有していることが明らかとなった。これは、カゴ構造によって、3次元的な構造規制を施すことで、通常は不活性なリンでもその配位子としての性能が向上したことを示している。さらに、不斉カゴ型リン錯体を用いたカップリング反応では、不斉ビナフチルを高いエナンチオ過剰率で与えることを見出した。ビナフチル骨格で構成される、剛直で高い対称性の不斉環境が、有効に作用したものと考えられる。
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