研究実績の概要 |
本年度は、まずプローブ分子の合成を行った。まず、ISIR-005の3’位にリンカーを連結するための酢酸ユニットを位置選択的に導入した。次に、リンカー部位の合成を行い、これを前述のISIR-005誘導体と縮合して、設計した自由度の低いリンカーを有するhexadiyneリンカープローブ(HD-005)、CH2(CF2)8CH2リンカープローブ(PF-005)を合成した。また、比較用にPEGリンカープローブ(PEG-005)、ポリプロリンロッドリンカープローブ(PP-005)も合成した。4つのプローブ分子の14-3-3/リン酸化タンパク質間のタンパク質間相互作用(PPI)安定化効果の評価するため、精製14-3-3ζタンパク質と蛍光ラベル化した14-3-3結合性モデルリン酸化ペプチドを用いて、蛍光偏光法による結合試験を行った。その結果、HD-005, PP-005, PEG-005の3つがISIR-005に匹敵する明確な安定化効果を示した。次に、アフィニティ精製によって標的タンパク質複合体をプルダウン可能かどうかを検証するため、これら3つの分子を磁気ビーズに担持した。このビーズとリン酸化ペプチド、精製タンパク質を用いてビーズ上にて3者会合体を形成させ、これを3回洗浄後にビーズ上に残ったタンパク質を溶出したところ、3つのビーズで同程度の量の14-3-3タンパク質が検出された。リン酸化ペプチドが存在しない条件で、同様の実験を行った場合、14-3-3タンパク質は洗浄操作で洗い流されてしまうことから、3つのプローブが全て3者会合体形成依存的に標的をプルダウンすることが可能であることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に予定していた、1)プローブの合成、2)14-3-3とモデルリン酸化ペプチドを用いたプローブ分子の会合特性評価、3)SPRシステムを用いた条件検討を行い、さらに平成29年度に予定していた4)細胞破砕液を用いたアフィニティー精製実験も行った。 まず合成については申請書記載の5種プローブ分子のうちbutyneリンカー以外のHD-,PF-005,PEG-005,PP-005を合成出来た。butyneリンカーは繰り返しユニットの数の増加に応じて、溶解性が低下し、反応および精製が困難になったため合成を断念した。合成出来た4分子を用いて、蛍光偏光法によるPPI安定化効果の評価を行ったところHD, PP, PEG-005の3つがISIR-005に匹敵する明確な安定化効果を示した。次に速度論的な解析を試みるため、Biacoreシステムでの評価を行ったが、この際にアビジン‐14-3-3間に相互作用があることが分かり、現状の末端をビオチン化したプローブでは、それ以上の速度論的、熱力学的な解析を行うことが困難になった。そこで、計画を変更し、SPR及びITCでの評価は中断し、実際に磁気ビーズにHD, PP, PEG-005を担持し、これとリン酸化ペプチド、精製14-3-3を用いてプルダウン効率を調べた。その結果、HD, PP, PEG-005はどれもほぼ同程度に14-3-3・リン酸化ペプチド複合体をプルダウン出来ることが明らかになった。これらのビーズを用いてHL-60細胞破砕液からプルダウン実験を行い、サンプルをSDS-PAGEで展開したところ、複数のタンパク質バンドが確認できた。この中で、14-3-3の分子量に相当する30kDa付近の最も濃いバンドをゲルから切り出し、MS/MSイオンサーチからタンパク質の同定をおこなったが14-3-3の断片は検出されなかった。
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