研究課題
感染症が疑われる臨床検体からの網羅的病原体探索法として、次世代シークエンサーを用いたメタゲノム解析法が用いられつつある。シークエンサーの著しいスループット向上により、大量のデータが得られるようになった。しかし、臨床検体中に含まれる全核酸のうち病原体由来のものは、多くの場合0.1%以下であるため、検出感度向上、低コスト化や解析の高速化を難しくしている。そのため本研究では、臨床検体中における病原体(特にウイルス)の濃縮法の開発に取り組み、より高感度、迅速かつ安価な病原体検出法の確立を目指した。本年度はハイドロキシアパタイトを担体に用いたスピンカラムによるウイルス濃縮・精製法の開発に取り組んだ。予備検討として行った糞便中のノロウイルスの濃縮では、最大で約256倍のウイルス濃縮に成功した。また、培養したインフルエンザウイルス(H1N1、H3N2)やC型肝炎ウイルス(HCV)についても、同様の実験を行ったところ、インフルエンザウイルスでは数倍の濃縮が可能であったが、HCVではほとんどカラムから溶出されなかった。さらに、より精製度を上げるため、液体クロマトグラフィー(LC)によるウイルスの高度精製法の確立に取り組んだ。スピンカラムと同様、インフルエンザウイルス及びHCVを用いて溶出条件などの検討を行った。インフルエンザウイルスでは、スピンカラムと同様にウイルス濃縮ができた。一方で、HCVはウイルスの濃縮はされていなかったが、特定の画分においてのみウイルスが回収できており、ハイドロキシアパタイトによるウイルス精製の有効性が確認できた。今後は、次世代シークエンサーを用いてメタゲノム解析を行い、どのような条件にてウイルス濃縮を行うことでどの程度、ホスト由来のデータが減らせるのか、各検体にどの程度のデータ取得を行う必要があるのかを検討していきたい。
2: おおむね順調に進展している
臨床検体中における病原体(特にウイルス)の濃縮法として、本年度はハイドロキシアパタイトスピンカラムを用いたウイルス濃縮・精製法の開発に取り組んだ。ハイドロキシアパタイトカラムへの吸着および溶出は、リン酸緩衝溶液の濃度勾配を利用した。予備検討として行った糞便中のノロウイルスの濃縮では、約256倍のウイルス濃縮に成功した。同様の方法にて、培養したインフルエンザウイルス(H1N1やH3N2)およびC型肝炎ウイルス(HCV)についても濃縮実験を行った。なお、インフルエンザウイルスの濃縮率は赤血球凝集反応により、HCVの濃縮率はリアルタイムPCRにより確認した。その結果、インフルエンザウイルスでは数倍の濃縮ができたが、HCVは残念ながらほとんど検出されなくなった。そこでより精製度を上げるため、液体クロマトグラフィー(LC)によるウイルス精製法の確立にも取り組んだ。スピンカラムの場合と同様に、インフルエンザウイルスとHCVを用いて、リン酸緩衝溶液の濃度勾配によりウイルスの濃縮を試みた。その結果、インフルエンザウイルスでは約10倍の濃縮ができた。HCVについては、濃縮はできなかったものの、精製前と同程度ウイルスの回収に成功し、HPLCを用いたウイルス精製がスピンカラムよりも有用であることがわかった。以上より、研究課題に対して本年度は、概ね順調に研究が進んだ。
今後の研究の推進方策としては、より濃縮効率を高めるために精製条件を検討することが挙げられる。HPLCを用いたウイルスの分離精製では、よりカラムを細く/長くするなど理論段数を高めることで分離性能を上げる必要があると考える。また、臨床検体への応用についても検討する必要がある。臨床検体では、ウイルス培養上清とは異なり検体に応じた前処理が欠かせない。とくに鼻汁や喀痰などは粘性が高く、そのままHPLCに供してもカラムをつまらせてしまうと予想される。また、リアルタイムPCRの場合とは異なり、次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析では、存在するすべての核酸配列を解読するため、ウイルスの検出率は、ホスト由来核酸とウイルス由来核酸の相対比に依存する。そのため、臨床検体中の大部分を占めるホスト由来の遊離核酸がハイドロキシアパタイトのカラムでは、どの程度のリン酸緩衝溶液の濃度で溶出されるのかについて検討する必要がある。HCVではウイルス自体の濃縮はされていなかったが、特異的な溶出条件においてのみウイルスが回収できており、今後臨床検体を使用する場合にはホスト由来の核酸が除去できている可能性は十分にある。リアルタイムPCRにより、ハウスキーピング遺伝子を対象として相対的に濃縮されているかを検討するとともに、次世代シークエンサーを用いてメタゲノム解析を行い、どのような条件にてウイルス濃縮を行うことでどの程度、ホスト由来のデータが減らせるのか、各検体にどの程度のデータ取得を行う必要があるのかを検討していきたい。
予備検討実験に想定よりも時間を要したため、検討できる条件数が減り、計画していた実験の一部を次年度以降に持ち越さざるを得なくなった。
未使用予算は、次年度の研究計画実施に必要な消耗品の購入にあてる。
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J Med Virol
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1002/jmv.24800
Adv Exp Med Biol
巻: 944 ページ: 53-62
0.1007/978-3-319-44488-8_42