研究課題/領域番号 |
16K21140
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
元岡 大祐 大阪大学, 微生物病研究所, 特任助教(常勤) (10636830)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メタゲノム |
研究実績の概要 |
感染症が疑われる臨床検体からの網羅的病原体探索法として、次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析法が用いられつつある。シーケンサーの著しいスループット向上により、大量のデータが得られるようになった。しかし、臨床検体中に含まれる全核酸のうち病原体由来のものは、多くの場合0.1%以下であるため、検出感度向上、低コスト化や解析の高速化を難しくしている。そのため本研究では、臨床検体中における病原体(特にウイルス)の濃縮法の開発に取り組み、より高感度、迅速かつ安価な病原体検出法の確立を目指した。 前年度に続き、ハイドロキシアパタイトを担体に用いた液体クロマトグラフィー(LC)によるウイルス濃縮・精製法の開発に取り組んだ。ノロウイルス、インフルエンザウイルス(H1N1、H3N2)、HCVについて、時間別の溶出液についてリアルタイムPCRで確認をしたところ、各ウイルス特異的に濃縮できていることがわかった。異なる種のウイルスで溶出条件は明らかにことなり、また、遺伝子型によっても異なることが明らかとなった。一方で、溶出時間の遅いものは、リン酸緩衝溶液のリン酸濃度が高くなることに依るUV吸収が大きいため、吸光光度計による検出が難しいこともわかった。また、より効率の良いウイルス濃縮を目指して、臨床検体の前処理方法を検討し、フィルターによる不純物の除去とnucleaseによる遊離核酸の除去が有用であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床検体中におけるウイルスの濃縮法として、昨年度に続きハイドロキシアパタイトカラムを用いたウイルス濃縮・精製法の開発に取り組んだ。ハイドロキシアパタイトカラムへの吸着および溶出は、リン酸緩衝溶液の濃度勾配を利用した。インフルエンザウイルス(H1N1とH3N2)を用いて液体クロマトグラフィー(LC)によるウイルス精製法の確立にも取り組んだ。その結果、インフルエンザウイルスでは約10倍の濃縮ができた。また、遺伝子型により溶出時間が異なることも明らかにした。また、臨床検体をLCに供する前処理方法として、0.45umのフィルターによる不純物の除去、nuclease処理による遊離核酸の除去を行い、特に糞便中のノロウイルスの濃縮において、本手法が有効であることがわかった。以上より、研究課題に対して本年度は、概ね順調に研究が進んだ。
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今後の研究の推進方策 |
リアルタイムPCRとは異なり、次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析では、すべての核酸配列を解読するため、ウイルスの検出率は、ホスト由来核酸とウイルス由来核酸の相対存在比に依存する。また断片化を行ってからシーケンスするため、サイズの大きなホスト由来核酸は、断片化後にモル数が莫大に増え、ウイルスの検出を難しくする。そのため、臨床検体中の大部分を占めるホスト由来の遊離核酸がハイドロキシアパタイトのカラムでは、どの程度のリン酸緩衝溶液の濃度で溶出されるのかについて検討する必要がある。ハウスキーピング遺伝子を対象として相対的に濃縮されているかを検討するとともに、次世代シーケンサーを用いてメタゲノムショットガン解析を行い、どのような条件にてウイルス濃縮を行うことでどの程度、ホスト由来のデータが減らせるのか、各検体にどの程度のデータ取得を行う必要があるのかを検討していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ノロウイルスやインフルエンザウイルスなど種々のウイルスを用いてハイドロキシアパタイトカラムからの溶出条件を検討した結果、ウイルス種や表面構造の違いのみならず、亜種レベルでも溶出条件が大きく異なっていることが明らかとなった。そのため、繰り返し確認実験を行ったり、様々なウイルスに共通して使用できる精製条件を探索したりするために、より多くの条件検討を行う必要があり、想定以上の時間を要する必要が生じた。本年度実施予定であった、次世代シーケンサーを用いた研究については次年度に実施する予定である。
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