研究課題/領域番号 |
16K21143
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大塚 洋一 大阪大学, 理学研究科, 助教 (70756460)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分子エレクトロニクス / 導電性高分子 / 金ナノ粒子 / ネットワーク構造 |
研究実績の概要 |
脳神経ネットワークに類似した、外部刺激に対して柔軟かつ高度な情報処理を行う分子デバイスの実現には、異なる機能の分子同士をナノスケールで自由自在に配線し、デバイス構造を階層化する技術が必要である。本研究では、①基板上の任意の位置で分子と金属ナノ粒子を相互に接続し、分子デバイスを階層化するための、ナノパターニング法を開発する。②色素分子や金属ナノ粒子で被覆されたDNAネットワークなどを用いて、階層化された脳型分子デバイスを構築する。外部刺激に対する、脳機能の短期記憶と忘却に対応する電気特性を分子デバイスで実現することを目指す。 研究代表者が昨年度に開発した装置を用いて、自己ドープ型導電性高分子と、金ナノ粒子が組み合わされたコンポジットネットワークの形成と、光刺激に対する電流値の変化を検討した。電極間を架橋する、線幅約3μmの分子ネットワークの電流電圧特性はオーミックであり、高分子鎖を介する電気伝導が計測された。次に、金ナノ粒子のプラズモン吸収と対応する緑色レーザ光を、断続的にデバイスに照射した際の電流値の変化を計測した。光刺激直後の一時的な電流減少と、光刺激中の継続的な電流値の振動を示した。光刺激停止後には、電流増加と約1秒の緩和応答を示した。一方で、導電性高分子のみのネットワークやコンポジットの薄膜試料では、逆の応答が得られた。光刺激の有無に対して電流値が急峻に増加と減少し、電流の振動と長時間の緩和応答は確認されなかった。本結果は、①金属ナノ粒子のプラズモン励起が伝導キャリアの変調を与えること(ノイズ生成)、②ナノ粒子のプラズモン励起で生じたホットエレクトロンが秒単位で高分子鎖に保持され、放出されること(電荷蓄積と緩和)の両方が、分子ネットワークの線幅の縮小により顕在化したものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画は、第一にナノピペットを用いて分子素子の配置と配線を実現すること、第二に分子デバイスを階層化して、脳の短期記憶と忘却に対応する、経時的メモリ特性を実現することである。研究代表者は、分子パターニング装置を新たに開発し、分子溶液への電界制御により分子溶液を基板上に安定的に付与すること、分子溶液と基板の固液界面場における溶液伸張と溶媒乾燥の効果により、分子配向が可能であることを見いだした。さらに、導電性高分子と金ナノ粒子からなる一次元分子ネットワークが、光刺激に対する電荷蓄積と秒オーダの電荷放出を生じることを発見し、脳機能の記憶と忘却に対応する、経時的メモリ特性を分子ネットワークで実現した。また、光刺激に対してノイズ生成が可能であることも見いだし、脳の微弱信号の復元で利用される確率共鳴現象を、分子デバイスで実現することへの可能性を提示した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画では、分子ネットワークを相互に配線し、階層化された分子デバイスを作製することで、脳の短期記憶と忘却に対応する、外部刺激の経時的メモリ特性の実現を目指してきた。現在までの研究の結果、導電性高分子と金属ナノ粒子から成る分子ネットワークで経時的メモリ特性を分子ネットワークで実現した。今後は、電流電圧特性の温度依存性計測や交流計測を行い、本分子ネットワークの電気伝導特性を詳細に検討し、メモリ特性やノイズ生成の起源を解明する事を目指す。また、より複雑な階層化された分子ネットワーク構造を構築し、脳のように外部刺激に対して柔軟かつ高度な情報処理を行うデバイスの試作を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 他の競争的資金を活用して、備品および消耗品を購入したため。 (使用計画) 分子ネットワークの作製のための材料購入のために次年度使用額を充当する。
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