本研究では、ナノパターニング法の開発、階層化された分子デバイスの構築、外部刺激に対する、脳機能の短期記憶と忘却に対応する電気特性を、分子デバイスで実現することを目指した。本年度は、以下の項目の検討を実施した。 1:昨年度に分子パターニング技術(ナノピペットを用いて微量体積の分子溶液を基板上に展開する技術)を用いて作製された、導電性高分子ラインパターンが光刺激に対して電流ノイズを生じる結果を論文にまとめた。 2:分子パターニング技術を用いて、自己ドープ型ポリアニリン(SPAN)の化学状態をラマン分光法を用いて検討を行った。金基板上にSPAN溶液をライン形状にパターニングした場合と、同溶液をドロップキャストした場合、また溶液表面のラマン分光計測の比較を行ったところ、ドロップキャストの場合には計測位置ごとにラマンスペクトル形状が変化し、不均一な化学状態を示したのに対して、パターニング試料は溶液試料と非常に類似したラマンスペクトルを示した。またパターンに沿ってラマン信号が均一であった。ナノピペット先端から流出するナノリットル~ピコリットルの微小量の分子溶液は基板上でプローブと基板の間のメニスカスを形成し、伸張される過程で速やかに乾燥することによって薄膜構造の均一性が高まったと考えられる。以上より、分子パターニング技術が均一な分子デバイス構造を作製する上で有用であること、また溶液中の化学状態を反映した分子デバイス構造を形成できることが分かった。
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