今年度は国会討論における対人関係的談話実践、特にやじとその応対に注目し、分析と考察を行った。これまでのポライトネス研究は、DurkheimからGoffman、Brown and Levinsonへと受け継がれてきた、相互行為上の儀礼が社会の秩序を維持、保存するという前提から、ポライトネスが偏重され、インポライトネスやルードネスが等閑視されてきた。しかし、こうした機能主義的な考えではやじという現象を十全に捉えることができないため、Gluckman(ritual of rebellion)やV. Turner(social drama)といった人類学的な知見を援用し、相互行為上の儀礼を社会の緊張や葛藤をも表出するものとして捉え直すことで、前年度まで理論化を試みてきた談話実践における利害・関心という考えをさらに発展させた。以上の理論的考察をもとに、国会討論におけるやじとその応対のデータを収集、分析し、論文としてまとめ、国外雑誌の特別号に投稿した。この特別号は、昨年度参加した国際学会でパネル発表を取りまとめたHungarian Academy of SciencesのDaniel Z. Kadar教授が発案、編者となり実現した国際共同プロジェクトである。 また、昨年度に引き続き、国会討論以外の談話実践の分析も行い、ママ友間の談話とヘイトスピーチをイン/ポライトネスと利害・関心の観点から考察した。 今年度の研究成果としては、国外の雑誌に論文を1編執筆(投稿中)、国内の雑誌に論文1編執筆、国際学会にて2件の口頭発表、公開ワークショップにて1件の発表を行った。
|