研究課題/領域番号 |
16K21149
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
遠藤 知子 大阪大学, 人間科学研究科, 講師 (00609951)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 生活困窮者自立支援制度 / 高齢社会 / 労働 / 社会参加 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、「雇用労働を基盤とする福祉制度を問い直す」という本研究課題を遂行する上で高齢社会に注目するという着想に至ったことから、地域の互助活動に参加する退職後の高齢者へのインタビュー調査を行い、地域活動の意味づけを雇用労働と家庭内での介護との比較において分析した。平成30年度は、この調査をもとに執筆した英語論文が国際学術ジャーナルAgeing & Societyに掲載された。本論文では、参加者が地域活動を新たな関係性や「共通世界としての公的領域」を相互に形成する「活動」として捉えていることを明らかにし、こうした活動が身分や上下関係によって制約された雇用労働の場よりも地域における自発的な参加の場においてこそ実現しやすいことを示した。その上で、高齢者の地域活動を、福祉ニーズを満たすために必要な労働、あるいはより良いサービスを生産するための手段として捉えがちな政策動向の限界を指摘した。 以上の研究を念頭に、生活困窮者への就労支援に関する政策研究としてこれまで就労義務の対象として考えられてこなかった高齢者の生活困窮者の位置づけの変化に注目することで就労義務と社会権の変容を見ることができるのではないかという着想に至った。その背景として、アクティブ・エイジングの流れを受け、日本における高齢者の雇用・就業促進と年金の受給開始年齢の引上げを目指す「生涯現役社会」の政策動向を分析した論文を『大阪大学人間科学研究科紀要』にて発表した。その上で、行政文書を主な分析資料としながら、高齢者の生活困窮者の位置づけの変化に着目し、生活困窮者自立支援制度の導入と展開が象徴する労働と福祉に対する規範を浮かび上がらせることを目的とする研究論文を執筆し、学会誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度の研究計画は理論研究の英語論文と生活困窮者自立支援制度に関する政策研究の日本語論文を執筆・投稿することであった。 平成30年度は、2年目に行なった調査の研究成果をまとめた論文を国際学術雑誌に投稿し、掲載に至った。本研究は実証研究に基づいているものの、就労の意味や雇用労働以外の社会参加に関する概念整理を含み、理論研究としての成果としても位置付けられる。さらに、平成29年度実績報告書の「今後の研究の推進方策」における計画通り、平成30年度は2年目の研究を発展させ、高齢の生活困窮者をめぐる政策研究と就労支援に取組む団体への聞き取り調査を実施した。これらの研究成果として、高齢者の就労をめぐる政策研究を紀要論文として発表し、高齢者の生活困窮者の位置づけの変化が象徴する就労と社会権の変容に関する論文を学会誌に投稿した。 以上の観点から本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、平成30年度に行った聞き取り調査をもとに、生活困窮者自立支援制度における就労支援事業に関する研究を進展させる。具体的には、福祉と就労の境界線上にある生活困窮者への就労支援政策が反映する今後の労働と福祉の方向性をめぐる価値対立を明らかにすることを目指す。このために、これまでの政策研究をもとに生活困窮者自立支援制度の政策理念、目的と手段について整理し、就労支援事業に参加する団体の活動理念や方法と照らし合わせ、両者が目指す福祉社会の親和性と緊張関係について考察を行う。 また、これまでの研究の総括として、「就労と福祉の変容」を念頭に、福祉国家再編の議論において提示されている制度的オルタナティブを比較検討する。福祉国家の再編をめぐる先行研究は、雇用の流動化や高齢化を背景とする新しい社会的リスクに対する従来の福祉国家の限界を機能主義的な観点から問い直す研究が主流であるのに対し、本研究では規範的な問題意識から雇用労働を前提とする従来の福祉国家の問題点と望ましいオルタナティブについて検討する。 以上の研究はそれぞれ国際学術会議などで報告し、研究論文としてまとめた上で学会誌に投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
<理由> 当初の研究計画では1年目と2年目に国際学会に参加するための海外出張旅費を計上したが、1年目は本研究の準備段階であったため、国際学会への参加を見送っ たため次年次使用額が発生した。2年目は、報告を行った国際学会の2017年度年次大会の開催地が国内であったため当初の計画よりも出張旅費が少なく済んだ。3年目は2年目に繰り越した出張費の残額が生じた。 <使用計画> 海外で開催される国際学会を含め、最終年度の研究成果報告のための出張旅費として使用する。
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