本研究の目的は、配座変化によって特性が変化する化合物の分子特性を利用し、それらを構成単位とするマテリアルの創出と、応力や光照射などの外部刺激に応答した動的な物性の変換である。具体的には、(1)柔軟なパイ共役骨格の構造変化に伴って蛍光特性の変化する分子を用いたソフトマテリアルの合成および応力に対する蛍光色の変化の解析、および(2)光照射によって形状が変化する分子を基盤とする有機ポリマーの熱伝導特性の変化の測定を行った。 最終年度は特に後者について、前年度に確立した測定手法を用いて、試料の合成および外部刺激に対する特性変化の測定を行った。試料としては、アゾベンゼンを複数組み込んだ有機ポリマーを合成し、基板上に薄膜を作製、光照射の前後での熱伝導特性の変化を測定した。測定は、3ω法を用いたACカロリメトリにより測定を行った。その結果、初期状態と比較して、紫外光照射によって熱伝導度の低下する様子が観測された。これは、高分子鎖中に組み込んだ分子が光照射によって構造変化を起こし、それに伴って高分子鎖が配向変化を起こしたことに起因すると考えられる。このように熱伝導特性を変化させることは、熱が流れないようにしたいときには断熱、流れるようにしたい時には高熱流束といった熱伝導特性のスイッチングを行うものである。これは、再生可能エネルギーの活用に大きな関心がもたれる一方で、未利用熱(廃熱)を利用して電気へ変換する熱電変換に関わる技術につながる可能性がある。
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