研究課題
当研究室では食道扁平上皮癌組織においてマクロファージの浸潤数が多い症例ほど予後不良である事を既に報告している。さらには前癌病変に相当する食道上皮内腫瘍組織の段階でもマクロファージが浸潤している事を見出している。食道扁平上皮癌の発癌初期段階におけるマクロファージの意義を検討するため、ヒト食道正常扁平上皮細胞株Het-1Aとin vitroでマクロファージ様に分化させたヒト単球性白血病細胞株THP-1との間接共培養系を確立した。先行研究において「単独培養のHet-1A」と「THP-1由来マクロファージと間接共培養したHet-1A」との間でcDNAマイクロアレイ解析を施行し、後者において発現上昇していた遺伝子としてcolony-stimulating factor 3 (CSF3)を見出した。CSF3はG-CSFとも呼ばれ、受容体としてG-CSF receptorが知られている。間接共培養後のHet-1AではCSF3 mRNAの発現が亢進している事を確認した。また、Het-1AあるいはTHP-1由来マクロファージの単独培養上清と比べてこれらの間接共培養上清ではCSF3タンパク質の分泌が亢進していた。Het-1AはG-CSF receptorを発現しており、recombinant CSF3をHet-1Aに添加したところ運動能の亢進がみられた。Recombinant CSF3を作用させたHet-1Aで活性化されるシグナル伝達経路を調べるためにphospho-kinase arrayを行ったところ、GSK-3α/βのリン酸化のスポットが亢進していた。この結果をwestern blottingで確認したところ、phospho-GSK-3α/β (Ser21/9)のリン酸化を認め、これと関連してphospho-β-catenin (Ser675)のリン酸化および核内移行を見出した。
2: おおむね順調に進展している
先行研究において施行したcDNAマイクロアレイ解析の結果では、log2 ratioで2倍以上の発現上昇を示した遺伝子が806個あり、この中から研究対象となる有望な遺伝子を絞り込む段階で難航する事が予想された。しかし、発現上昇および腫瘍性格(現時点で運動能亢進)への影響を確認し得た因子としてCSF3を見出す事ができた。CSF3の作用機序はJAK/STAT経路が典型的であるが、本研究では非典型的ではあるもののGSK-3α/β-β-cateninのリン酸化制御を介した経路が関与する可能性が示唆された。
β-cateninは転写促進因子であるため核内に移行して転写を制御する。Recombinant CSF3を作用させたHet-1Aでは活性型のβ-cateninの核内移行を確認できている。以上からrecombinant CSF3は何らかの遺伝子発現を介して運動能を亢進させている可能性が考えられるため、下流で発現上昇している遺伝子を特に運動能亢進という表現型に着目して絞り込む。さらには、食道上皮内腫瘍組織におけるCSF3やG-CSF receptorの発現を免疫組織化学で検討し、腫瘍組織におけるこれらの分子の発現の意義を確認する。
「別冊BIO Clinica」誌より本研究課題に関する執筆依頼があり、掲載料が生じる。次年度の研究成果投稿料が当初予定より増額する見込みとなり、一部を次年度に繰り越すこととした。
「別冊BIO Clinica」誌の掲載料は一頁につき¥30,000であり、数頁の掲載を予定している。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (17件)
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