本研究課題は、細胞内局所構造をオンタイム制御できるケージド化合物がもたらすメカノバイオロジーの新展開を目指している。我々が以前に開発したチオクロモン型光解離性保護基は光照射による脱保護反応が進行したときのみ蛍光を発することから、この蛍光をモニターすることで、細胞内でも「いつ、どこで」生理機能が復元しているかを評価可能であると考えた。上記の目的を達成するために、本年度のターゲット分子として、水溶性のシクロデキストリンを選択した。シクロデキストリンは細胞膜の恒常性をつかさどるコレステロールを包接しこれを細胞膜から抜き取ることで細胞膜の形態を変化させ細胞死を誘発する。このような細胞膜の形態変化が人間の疾病の原因となることが知られているが、それを能動的かつ時空間的に制御した例はなかった。そこで、シクロデキストリンにチオクロモン型光解離性保護基を導入し、ケージドシクロデキストリンとすることで、コレステロール包接能を制御することを試みた。その結果、水溶液中においても効率よく光脱保護反応が進行し、それに伴う蛍光強度の増加も確認された。また、NMRスペクトルとMALDI-MSスペクトルから、光照射前は保護基がシクロデキストリンの空孔内に入り込むことでコレステロールとの包接錯体形成能を低下させており、これに光を照射すると保護基が外れ蛍光発光が観測されるとともに、元のシクロデキストリンが再生することでコレステロールとの包接錯体が形成されることを明らかにした。つまり光照射のONとOFFで、シクロデキストリンのコレステロール包接能を能動的に制御できることを見出した。 これに加え、保護基の脱保護能ならびに水溶性の向上を目指し、保護基の骨格チューニングも行った。
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