前年度までに、微小光学素子である光リング共振器をアレイ状に集積した光回路チップの作製および多項目検出のために必要となる溶液制御用の微小バルブの作製を行い、作製した光回路チップについては光学特性および温度変化やショ糖濃度変化についてのセンシング感度の評価を行った。2019年度は、微小バルブの作製工程の改善および流路に溶液を導入する方法や多項目検出の可能性を簡易に判断するための光チップ上に直接滴下する方法の改善を行った。 微小バルブの作製工程の改善については、工程の簡易性や素子サイズの観点から縦方向に動作する形状の素子について注力して行った。前年度までは、動作電圧の低減から微小バルブの材料としてフォトレジストを用いて、フッ酸溶液を使用した工程にてバルブ形状を形成していたが、使用したフォトレジストのフッ酸耐性が十分ではなかったので、フッ酸溶液を使用しない工程になるように形状および材料を変更した。具体的には、フォトレジストはそのまま使用して、バルブ形状の作製に必要な多層膜の形成段階で、中間層をシリコン酸化膜からアルミニウムに変更し、さらにフォトレジストの一部をシリコーンゴムの一種であるポリジメチルシロキサン(PDMS)に変更した。この変更により、アルミニウムの除去に必要な溶液処理でバルブ形状が形成でき、フッ酸処理が必要なくなり作製工程の改善が可能となった。レジストの溶液に対する耐性が大きく、バルブ形状の良好な素子が得られた。 光回路チップの光学特性評価および多項目検出のバイオセンシングについては、バルブを付加した流路をチップ上に混載する前段階で行い、さらにバイオセンシングの感度の向上についても検討した。溶液の導入などはマイクロマニュピレータ装置で行い、制御性の向上は見込めたが感度については想定していた10倍以上の向上を明確に示唆するにはいたらなかった。
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