研究課題/領域番号 |
16K21193
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
松本 俊彦 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (70634723)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 肝硬変 / マクロファージ / Rho family GTPase / R-Ketorolac |
研究実績の概要 |
進行した肝硬変患者では、肝臓内に蓄積した線維のために肝再生機構が十分に機能しておらず、改善するためには線維を溶解する必要がある。そこで本研究では、マクロファージにおいて細胞運動に関与するRho family GTPase(Rac1, Cdc42)の阻害が線維溶解酵素MMPの発現を増加させることに着目し、アメリカ食品医薬品局の認可受けた消炎鎮痛剤Ketorolacの光学異性体であり、Rac1/Cdc42阻害作用を持つR-Ketorolacが線維溶解療法に応用可能かについて検討することを目的とした。 これまでの我々のin vitro検討で、マクロファージではRac1阻害剤NSC23766添加によりMMP9発現が、Cdc42阻害剤ML141添加によりMMP13発現が増加することが明らかとなった。そこで、これらのRho family GTPase阻害剤をin vivoで四塩化炭素誘導肝線維化マウスモデルに週2回腹腔内投与し、肝線維化改善効果について検討した。結果、Rac1阻害剤NSC23766投与マウスとコントロールマウスの比較において、血液生化学検査では肝酵素の上昇は同等であり、病理組織学的検討でも肝細胞障害の部位と程度に差は認めず、肝障害の程度は同等であった。一方で、Rac1阻害剤NSC23766投与マウスにおいて肝内MMP9発現細胞の増加、肝線維化の抑制を認め、肝内マクロファージの貪食像減少などの副作用は認めなかったことから、Rac1が肝線維化治療の標的として有効であることが明らかとなった。また、Rac1/Cdc42阻害剤R-Ketorolacのマクロファージに対する作用を検討するため、in vitroでマウス骨髄由来マクロファージにR-Ketorolacを添加したところ、MMP9, 12, 13発現の増加傾向を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、in vivoでは肝線維化マウスモデルにおいてRho family GTPase(Rac1、Cdc42)阻害剤の肝線維化抑制作用を検討し、in vitroではR-KetorolacのマクロファージMMP発現への作用について検討を行った。in vivoでRac1阻害剤による肝線維化抑制を認めたことから、本研究におけるコンセプトの確認ができたものと考える。一方で、マクロファージMMP発現に対するR-Ketorolacの作用は、Rac1阻害剤やCdc42阻害剤単独よりも軽度であり、今後in vivoで肝線維化改善効果を有するかを検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
今回の検討により、in vivoでRac1阻害により肝線維化が抑制されたことから、Rho family GTPaseを標的とする線維溶解療法のコンセプトを確認することができた。そこで次年度は、in vivo四塩化炭素誘導肝線維化マウスモデルを用いてR-Ketorolacの肝線維化抑制効果について検討を行う。 一方、in vitroでR-KetorolacのマクロファージMMP発現に対する作用は認めているが、Rac1阻害剤やCdc42阻害剤単独よりも軽度であり、in vivoで線維化抑制作用が十分でない可能性がある。R-KetorolacがRac1とCdc42の両方を阻害していることが原因の可能性があるため、in vitroでRac1阻害剤とCdc42阻害剤を同時に添加し、マクロファージMMP発現への作用を評価する。その結果、Rac1とCdc42の同時阻害がMMP発現増加作用を減弱していることが明らかとなれば、標的をRac1に絞り、Rac1を阻害する他の方法について追加検討する。近年、C型肝炎治療薬ミラヴィルセン(miravirsen)などの核酸(microRNA)医薬品の開発が進んでおり、新規治療薬として注目されている。我々は既にRac1を標的としたmicroRNAを同定しており、同microRNAによる肝線維溶解療法について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はRho family GTPase阻害剤の肝線維化抑制効果を評価するためのマウス肝線維化モデルを用いたin vivo実験とR-Ketorolacのマクロファージに対する作用を検討するためのin vitro実験を行った。in vitro実験で用いたR-Ketorolacはこれまでに使用しておらず、新規購入を要し、また骨髄由来マクロファージ作製のためのマウスを要した。一方、これまでにもRho family GTPase阻害剤を用いたin vitro検討を行ってきたため、Rho family GTPase阻害剤は保有しており、in vivo検討で予想していた投与量よりも少量で肝線維化抑制作用を確認できたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、in vivoで四塩化炭素誘導肝線維化マウスモデルを用いてR-Ketorolacの肝線維化抑制効果について検討を行う予定であり、投与量の検討から肝線維化抑制効果の評価までを行うため、本年度よりも多くのR-Ketorolac、肝線維化モデルマウス作製のためのマウス、分子生物学関連試薬や免疫組織化学染色用試薬を要する。また、本年度の研究成果を基に新規検討項目としてin vitroでRac1阻害剤とCdc42阻害剤の同時添加によるマクロファージへの作用を評価するため、Rac1阻害剤、Cdc42阻害剤の購入を要する。さらにその結果を受けて、microRNAによる肝線維溶解療法について検討することとなれば、microRNA mimicやinhibitor、遺伝子導入試薬等の購入を要する。これらに対して次年度使用額を充当する。
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