研究実績の概要 |
肝硬変患者では、蓄積した線維により肝再生が阻害されており、改善には線維溶解が必要である。そこで本研究では、マクロファージ(Mφ)の細胞運動を制御するRho family GTPase(Rac1, Cdc42)が線維溶解酵素MMPの発現に関与することに着目し、Rac1/Cdc42阻害作用を持つR-Ketorolacを線維溶解療法に応用すべく検討を開始した。in vitroでマウス骨髄由来マクロファージにR-Ketorolacを添加すると、MMP9, 12, 13発現の増加傾向を認めたが、Rac1阻害剤(NSC23766)やCdc42阻害剤(ML141)単独よりも軽度であった。in vivoでは、四塩化炭素誘導肝線維化マウスモデルにR-Ketorolacの腹腔内反復投与を行い、肝線維化改善効果を評価したが、肝線維化の改善は得られなかった。R-KetorolacがRac1/Cdc42の両者を阻害することが改善効果不十分の原因であると考え、以後、Rac1を標的としたmicroRNA(miR) 142-3pによる肝線維溶解療法について検討した。in vitroで、ヒト末梢血単球由来マクロファージにmiR142-3pを導入すると、MMP12発現が有意に増加した。また、miR142-3p導入ヒト肝星細胞では、細胞形態が紡錘形から類円形に変化し、増殖が有意に低下した。また、線維化関連遺伝子発現では、TGFβreceptor(TGFBR)1の発現低下、BMP and activin membrane-bound inhibitor (BAMBI)の発現増加、MMP1の有意な発現増加を認めた。これらの結果は、miR142-3pが肝線維化改善に働く可能性を示唆しており、in vivoで四塩化炭素誘導肝線維化マウスモデルにmiR142-3pを導入し、肝線維化への影響についての検討を継続している。
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