研究課題/領域番号 |
16K21194
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
神野 有生 山口大学, 創成科学研究科, 助教 (30583760)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | UAV / 写真測量 / 浅水底 / 水面反射 / 動画 / 時間方向フィルタ / 最小値フィルタ / 水面屈折 |
研究実績の概要 |
本研究は、濁りや波の比較的小さい水域を対象に、UAVによる空撮を用いて、陸側から浅水帯に至る高密度な標高分布を得るための技術開発を目的としている。平成28年度は主に、回転式偏光フィルタを用いた動画撮影により、水面反射による太陽・空の写り込みの軽減、陸/水の自動判別を行う可能性について検討した。 はじめに、カメラに付けた偏光フィルタに小型モーターの回転を伝える機構を製作し、UAVに搭載した。次に、実際の海岸において、この装置を用いた浅水底の空撮を試みた。その結果、回転式偏光フィルタを用いた動画撮影を行い、動画に時間方向最小値フィルタを施すことで、水面反射による太陽・空の写り込みや、波によって底面上にできる光の模様(caustics)がほぼ除去された画像を合成できることが明らかになった。一方、陸/水の自動判別については、難しいことが明らかになった。 試験飛行の段階でUAVが原因不明の原因喪失により墜落した(現在は無償交換された)ため、本装置を用いた場合の測量精度の検証は、次年度実施することとなった。しかし、この事件を契機として、回転式偏光フィルタを用いない通常の動画撮影を行い、事後に時間方向最小値フィルタを施したところ、この方法でも、太陽・空の写り込みや波によって底面上にできる光の模様を軽減できることを発見した。これは当初計画しなかった成果であるが、この方法は特殊な装置を要せず、小型のUAVでも実施できるという実用上のメリットがある。 そこで、海岸・河川で、この方法を用いた水面下のUAV写真測量について、精度の現地検証を行った。現地測量結果と比較した結果、通常の写真撮影と比べて、顕著に高い写真測量精度が得られた。一方、当初は重視していなかった水面屈折補正(水面での光の屈折により水底が浅く推定される効果の補正)の手法が、精度に大きな影響を与えることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
試験飛行中に起きたUAVの原因不明の墜落により、当初計画の回転式偏光フィルタを用いた実験は限定的にしか行えなかった。一方で、この墜落を契機として、回転式偏光フィルタを用いない通常の動画撮影を試み、時間方向最小値フィルタを施したところ、回転式偏光フィルタがなくても、太陽・空の写り込みや、波によって底面上にできる光の模様を、効果的に除去できることを発見した。 この新しい方法は、特殊な装置や大型のUAVを必要としない点で、実用に有利である。そこで、この新しい方法を用いた場合の、水面下の写真測量精度の検証を行った。海岸・河川での計3ケースの現地実験により、本方法を用いた場合、通常の写真撮影に比べて、水底の測量精度が圧倒的に高くなることが明らかになった。例えば、海岸における日照なし・日照有りの2ケースの実験では、水底の標高に関するRMS誤差が、通常の写真撮影の場合はそれぞれ0.464 m, 0.145 mであったのに対し、本方法を用いた場合にはそれぞれ0.098 m、0.076 mに抑えられた。 また、当初から予想していた問題点ではあるが、動画撮影中のUAVのわずかな動きによるぶれが、本技術に悪影響を与えることが明らかになった。このぶれは、試行錯誤の末、市販の動画編集ソフトに実装されている補正機能を使った画像フレーム間幾何補正処理により除去できた。そこで上述の現地実験では、撮影した動画にこの補正処理を適用した。さらに、以上の現地実験の過程で、計画段階では重視していなかった水面屈折補正の方法が、精度に大きな影響を与えることが見出された。 平成28年度を振り返って、UAVの原因不明の墜落によって若干の計画変更を余儀なくされたものの、その結果として当初計画よりも実用性・汎用性の高い技術にたどりつき、その設計と現地実験による精度検証を十分に行えたことから、研究は順調に進んでいると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の結果を踏まえ、平成29年度は第1の課題として、回転式偏光フィルタを用いた場合について、精度検証を含めた現地実験を行う。同時に、新たに水面反射除去効果が見出された、回転式偏光フィルタを用いない動画撮影を行う方法も試み、用いた場合と精度の比較を行うことで、どちらが実用上有利であるかを判断する。 計画当初は、DSM作成までの処理を1つのプログラムで実装することを計画していたが、平成28年度に確認された、ホバリング中のドローンの動きによるぶれの問題については、現在のところ、オープンソースでない商用ソフトウェアが必要である。そのため、全過程の実装は難しい。大学における研究としては、無理な実装に拘るよりも技術的な諸課題を解決していくことが適切であると考える。そこで以降は、一貫した実装の代わりに、平成28年度に見出された第2の課題:水面屈折補正方法の検討に精力的に取り組む予定である。 現在広く用いられている水面屈折補正(水面での光の屈折により水底が浅く推定される問題の補正)は、通常の写真測量の解析処理で得られる見かけの水深に、補正係数として水の空気に対する相対屈折率(約1.34)を乗じるものである。しかし、これまでの検討によれば、この係数には幾何学的根拠が薄いし、実際に現地実験でも適切な結果を与えない。実際に平成28年度、河川における現地実験ケースについて、水面下の現地測量に基づく経験的な補正係数を計算したところ、それぞれ1.72, 1.60と、従来の1.34よりも大幅に大きくなった。UAVを用いた浅水底の写真測量の実用化のためには、より正確かつ冠水部の現地測量を要しない水面屈折補正手法の開発が必要である。 最後に、本研究においては、水面反射除去・水面屈折補正の両面で、既に多くの成果が得られている。平成29年度以降、それらを積極的に学会発表・論文発表していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が発生した主な理由は、現地調査に大学の公用車を利用することにより、調査用レンタカー費が不要となったこと、および本テーマを指導学生の研究テーマに位置付けることにより、調査補助者金が不要になったこと、である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度分として請求した助成金と、今回発生した「次年度使用額」を合わせて、平成28年度の成果の学会・論文発表、平成29年度の調査に必要な消耗品の購入、および研究を補佐する技術補佐員の雇用、に充当する予定である。
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備考 |
上記のページでは、本研究を通じて研究代表者が得た技術情報を掲載している。現在具体的には、最も一般的な写真測量の解析ソフトウェアの1つであるAgisoft PhotoScanの操作方法について、操作手順や主要概念に関する詳しい解説を連載している。
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