研究課題/領域番号 |
16K21209
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
中筋 朋 愛媛大学, 法文学部, 准教授 (70749986)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フランス / 演劇 / 俳優論 / 演劇理論 |
研究実績の概要 |
本研究は、19世紀末フランスにおける演劇の革新の研究を踏まえて、近代演出の成立が俳優訓練術に与えた影響を、当時の思潮や科学的言説も考慮しながら明らかにし、近代において求められた俳優の身体性を解明することを目的とする。 今年度は、19世紀フランス思想の流れについての基礎研究を進めることができた。具体的には、19世紀における心理学の変容を捉えることにより、「身体性」が当時の思想に与えたインパクトについて新たな視座が与えられるという仮説が得られ、演劇との関わりを考えるうえで、いかに19世紀哲学にアプローチしていけばよいかの指針が明確になった。これは、19世紀フランス哲学というあまり研究されてこなかった分野における研究にとって、非常に大きな一歩である。 具体的な演技論関係の業績としては、19世紀末の演技論を考えるうえで重要な西洋と東洋の演技論の交錯の問題についての論文を発表した。19世紀末になり演技の身体の次元が取りいれられはじめたフランスの当時の状況と、身体の「芸」のなかに自然な演技と言葉とが急速に導入された19世紀末の日本の状況は、演技論の変容を考えるうえでどちらも興味深く、裏表の関係ゆえに示唆に富んでいる。このような状況は現在にもあてはまる。このことを明らかにするため、報告者は、日本演劇学会を「演技術からみる身体」というテーマで開催し、フランスの俳優・演出家のディディエ・ガラス氏と日本とヨーロッパで活躍する奥野晃士氏を招いて、ともに講演をおこなってもらうとともに、日仏の演技論の関連・相違についてのトークを企画した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請段階で企画していたディディエ・ガラス氏によるフランスの伝統的俳優教育と現代演劇の関わりについて、学会および大学での講演として実現できたことは大きい。また、日本の俳優であり、日本の演技法をヨーロッパで伝えておられる奥野晃士氏もともに招待し、二人の対話という機会を設けることにより、文化的背景の異なる日本とフランスにおいても共通する部分があることが明らかになり、非常に刺激的な議論の場を創り出すことができた。報告者は、同じく今年度、近代演出の黎明期である19世紀末ヨーロッパと、西洋演劇を「輸入」したばかりの19世紀末の日本において、俳優論において共通する部分があることを明らかにしたところであり、このような平行的現象を19世紀末と現代ともに見いだせたことは、今後の研究において大きく演技論の変遷を辿るうえで大きな収穫であった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度明らかになった方法論をもとに、19世紀の心理学の変容について研究を進めていく。これと平行して、19世紀半ばの演技論と19世紀末の演技論を比較することにより、思潮と芸術の変化の関わりを明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定よりも出張旅費が安くおさえられたため、次年度使用額が生じた。次年度の書籍購入に使用する予定である。
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