本研究では、従来「如何に効率的な電子注入を実現するか」が主な研究対象であった有機エレクトロニクス素子の低仕事関数電極に関する研究において、その電子注入特性を維持しつつ、その低仕事関数電極自身に対し「耐腐食性を付加」し、「耐環境性を有する有機EL素子」を実現することを目的として研究を進めている。昨年度までの研究において、マグネシウムを母材とし、カルシウムを10 atom%ドーピングした合金電極(Mg-Ca)を有機EL素子用陰極とすることで、未封止条件においても著しくダークスポットが抑制されるとともに、高い電子注入効率も維持されることを見出した。本年度はさらなる大気安定性の向上を目指し、マグネシウム合金組成に関する検討を進めた。その結果、予期せずMg-Ca合金に対して第3元素であるアルミニウムを添加したMg-Al-Ca合金が、蒸着薄膜においても低い仕事関数(-3.7 eV)を維持しつつ、Mg-Ca合金と比較しても高い大気安定性を示すことを発見した。また、本研究で見出したMg-Ca-Al合金を陰極電極として有機EL素子を作製・評価した結果、未封止条件(30℃・50%相対湿度条件)で素子を100時間保管した場合においても、95%以上の発光面積を維持可能であることが確認された。参照試料としてMg-Ag合金陰極を用いた有機EL素子では、100時間後の発光維持面積は85%であり、本研究で開発したMg-Ca-Al電極材料は、優れた大気安定性を示すことが明らかとなった。このように本研究成果により、有機EL素子の耐環境性を著しく高められる可能性がある。
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