研究課題/領域番号 |
16K21215
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
北野 載 九州大学, 農学研究院, 助教 (30635008)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 性成熟 / 卵黄形成 / 産卵 / 環境応答 / 繁殖特性 / ケンサキイカ |
研究実績の概要 |
ケンサキイカには複数の季節発生群が存在することが知られており、西日本周辺海域では冬期を除くほぼ周年にわたり産卵が行われると考えられているが、各々の水温帯における繁殖力に関する生物情報はほとんど無い。本年度の研究では、本種における繁殖特性の水温応答を評価するための実験基盤構築を目的として、水槽内における飼育試験と生殖関連遺伝子の探索を行った。 【飼育試験】2016年7月上旬に佐賀県唐津周辺海域で漁獲された交接痕をもつ卵黄形成期のケンサキイカ雌個体を、産卵基質となる砂を敷いた複数基の1トン水槽にそれぞれ1匹ずつ収容して飼育した(水温:19.9~22.6℃)。結果、15日間で平均5回の産卵が確認された。また、産出された卵嚢内における卵数は、産卵を繰り返すごとに減少する傾向が認められた。 【生殖関連遺伝子の探索】本種卵巣のトランスクリプトームデータベースから、卵黄形成期に高い発現量を示す遺伝子を探索した。結果、2種の卵黄タンパク質前駆物質(ビテロジェニン)を同定し、これらはともに卵黄形成期の卵母細胞に陥入する濾胞細胞で特異的に発現することを明らかにした。 以上の今年度に実施した飼育試験により、本種の雌1個体あたりの産卵頻度や産卵量などの繁殖特性値を飼育下で実測することが可能となった。また、同定したビテロジェニン遺伝子の発現量は、卵生産力を生理学的根拠に基づいて定量評価するための有用な指標になり得ることが予想される。今後、種々の水温下で飼育試験を行って得られたサンプルを解析することで、本種の繁殖特性に及ぼす水温の影響を評価することが可能であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、性成熟生体を入手して水槽内飼育による産卵実験を行った。飼育水槽を準備する期間の都合上、春季における試験は実施できなかったが、夏季に行った試験においては、産卵頻度を算出するための産卵日記録を行うとともに、産卵量を確認するための卵嚢ホルマリン固定標本を得て、卵嚢内の卵数を順次計数しているところである。 繁殖力の生理学的指標となる生殖関連遺伝子の探索については、遺伝子データベースの整備が当初の計画よりも早く完了したので、本年度のうちに2種の卵黄タンパク質前駆物質であるビテロジェニンを同定するに至った。 以上、次年度以降は異なる水温下における飼育試験を行ってデータを充実させる必要があるが、現段階における飼育実験と生殖関連遺伝子解析はともに順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度と同様に、飼育下で産卵が確認された雌個体の繁殖特性値を入手するが、本年度は複数の水温区を設けて実験を行う。また、産卵量・産卵頻度に関しては、産卵個体サイズとの関係を検証して収集したデータのばらつきを補正する。さらに、ビテロジェニン遺伝子ならびに今後に同定予定である他の生殖関連遺伝子の発現を指標として、本種の性成熟が可能な上限および下限水温に関する情報を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に購入予定であった飼育水槽用の泡沫分離装置は、既存の1基を複数の1トン水槽に共通で使用したため、今年度の購入を行わなかった。また、調光装置は、当初の計画よりも安価に設置できたため。
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次年度使用額の使用計画 |
飼育試験で設置する試験区を増加させるに伴い、前年度に未使用となった費用により新たに泡沫分離装置ならびにその設置に必要なポンプ類やろ材などを購入する。
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