研究課題/領域番号 |
16K21228
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
佐藤 晋平 佐賀大学, 教育学部, 講師 (00758807)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 教育裁判 / 代理 / 不登校 |
研究実績の概要 |
本研究は、学校や教育行政との裁判の遂行により、当の学校で通常想定される教育を受けることが困難になってしまった場合の、当事者の学び、成長について研究しようとするものである。 研究2年目となる平成29年度には、研究対象となる者を前年度に引き続きさらに探し、接触した。また、可能な者にはインタビュー調査を行った。インタビュー調査では、学校での問題を経験した本人(生徒)の親から話を聞くことができた。可能な限り早く学術論文として公表することを目指しているが、その内容からは、本研究のような関心が教育学の中で考察されてこなかったことがよくわかった。 具体的には、例えば本人(生徒)が状況を把握しきれていない状況で、親にのみ学校と子の間に発生した事柄の問題性に気付いている場合、裁判は子の名において親が遂行するものの、その代理の正確性を客観的に認めることは極めて難しくなる。親にのみ学校の不作為や過失が理解でき、子はそれを理解していないか関心がない、ということがあるということである。 こうしたケースは、親の代理権の正当性をどう考えるのか、あるいは子の意志を尊重するということが何を意味するのか、また学校事件・学校事故裁判に対する社会による批判や行政の改善へのアプローチは現状の方向性でよいのか、こうしたことに大きく疑問を突き付ける成果となる可能性がある。 なおインタビュー調査とは別に、従来の教育法研究における裁判に関する議論を再考する論文を執筆した(「教育・法・教育法を分けるもの:特殊法的教育法理論における強制性の忌避の問題から」『佐賀大学教育学部研究論文集』2巻1号、2017年)。ここでは、従来の教育法研究において裁判というものが忌避されてきたこと、そしてそのことが、教育と法の関係において発生する上記のような問題系に着目する視点を失うことを促した可能性を指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の進行は、やや遅れていると言える。その最大の理由は、研究対象として想定している裁判当事者、経験者が、自身の経験を語ること、またそれを公表することを望まないということである。研究対象となりうる裁判経験者には、教育学等の学術研究者に対し批判的な者も少なくない。それは、研究者が研究対象として経験者・当事者を「利用」してきた歴史が影響しているためである。 本研究は、こうした批判や懐疑と向き合いながら遂行しているため、研究対象者との関係構築に、当初の予想よりもさらに長い時間を要している。しかし研究遂行者としては、こうした批判や懐疑を向けられることは確かな理由に基づくことであり、乗り越えるべき課題であると考えている。徐々にインタビュー調査等に応じてくれる研究対象者も現れており、研究が大きく飛躍する可能性も十分あると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後については、さらなる研究対象者の発見と、インタビュー調査の遂行に力を入れる。 本研究では、裁判係属中のケースと確定済みのケースの双方を扱うとしたが、現在のところ、主に係属中の研究対象との接触が多い。今後は確定済みのケース、対象への接触に力点を移し、研究の進行を早めたいと考えている。 係属中のケースについても引き続き追跡し、機会を見てインタビューを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の研究においては、研究対象者への調査のための旅費の使用が当初計画より少なかった。これは、一つには調査が順調に進んでいないことがあるが、もう一つには、別の要件の出張と同時に調査を実施できた、あるいはさほど旅費を必要としない距離の範囲での調査が進展したことがあげられる。 平成29年度に次年度使用額が発生したため、平成30年度については調査の量を増やし、研究を充実させたい。
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