研究課題/領域番号 |
16K21229
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
倉田 里穂 佐賀大学, 医学部, 助教 (70711729)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 炎症 / ベーチェット病 / tripartite motif protein / インターフェロン |
研究実績の概要 |
ベーチェット病(BD)は、口腔粘膜や外陰部の潰瘍および皮膚やぶどう膜の炎症を主症状とする全身性の炎症性疾患である。全身性の疾患でありながら特定の臓器に症状が現れる傾向が強く、特殊な病態を示す。ぶどう膜炎による失明や度重なる炎症症状は患者のQuality of life(QOL)を著しく低下させることから、新規治療法は社会的にも要求性が高い。免疫応答としてはインターフェロン(IFN)を中心としたTh1型と考えられていたが、自己免疫疾患に深く関与するTh17の病態への関与も示唆される。これまでに数多くの遺伝子関連解析が行われ、ヒト主要組織適合遺伝子複合体のHLA-B*51、HLA-A*26やインターロイキンのIL-10、IL23R-IL12RB2への感受性が報告されている。加えて、HLA領域のSNP関連解析により、新たにTRIM39Rに感受性を見出した。 TRIM39Rは、tripartite motif-containing 39(TRIM39)とribonuclease P/mitochondrial RNAprocessing 21 kDa subunit(Rpp21)遺伝子間のインタージェニックスプライシングによって、mRNAから翻訳されるキメラタンパク質で、TRIM39のC末端に位置するSPRYドメインが、Rpp21の酵素活性ドメインに置き換わった分子構造を取る。TRIM39、TRIM39RおよびRpp21の過剰発現系を、HEK293T細胞を用いて樹立し、マイクロアレイを用いた遺伝子発現網羅的解析により、TRIM39RのみがI型IFN応答を惹起することを見出した。 平成28年度は、TRIM39遺伝子改変マウスの作製とIFNの転写活性を測定するレポーターアッセイ系の樹立を試みた。さらに、当初の計画にはなかったが、分子構造の重要性が見えてきたため、立体構造解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・遺伝子改変マウスの作製:TRIM39Rのトランスジェニックマウス作製するために、全身で強くドライブするCAGプロモーターを用いて、DNA溶液を作製した。KOマウスについては、TRIM39RがTRIM39とRPP21のキメラ遺伝子で、遺伝子中の大部分の領域をTRIM39およびRPP21と共有しているので、TRIM39R特異的にKOすることが難しい。そのため、TRIM39RとTRIM39に共通のN末端側の領域を標的とし、TRIM39およびTRIM39Rの両方のタンパク質が欠損するようにデザインしたguide RNAを作製した。 ・レポーターアッセイによるIFNの測定:分泌型アルカリホスファターゼを連結したエピソーマルベクター(NFkB-SEAPおよびIRF-SEAP)をHEK293T細胞に導入し、レポーター遺伝子恒常発現株を樹立した。レポーター遺伝子恒常発現細胞にTRIM39R、TRIM39およびRPP21を過剰発現すると、TRIM39RのみがIFNを惹起し、マイクロアレイによる遺伝子発現解析と同様の結果が得られた。さらに、TRIM39Rの各ドメイン(RING、B-box、Coiled-coil、PRYおよびRPR)欠損変異体の発現ベクターの作製を行った。 ・構造解析:TRIM39ではなくTRIM39RがIFNを惹起するが、両分子の違いはC末端側のドメイン構造にある。分子構造の重要性に着目し、当初は計画していなかったが、分子全体の立体構造解析を行った。N末端のドメイン構造は同じファミリーに属するTRIM30を参考にし、C末端のドメインは既に予測された構造を用いた。その結果、TRIM39に類似したドメイン構造をもち、既に構造が明らかにされているTRIM25と酷似した立体構造を予測することができた。さらに、構造が明らかにされた他のTRIMと同様に、二量体の構造をとることが予測された。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、作製したDNA溶液およびguide RNAを用いて、遺伝子改変マウスの作製と、ドメイン欠損変異体を用いたレポーターアッセイによるIFNの測定を行う。 その後、TRIM39Rの分子ターゲット探索を行う。TRIM39Rと相互作用するRNAを免疫沈降法により分離し、次世代シーケンサーを用いたRNAシークエンスによって同定する予定である。同定したRNAは、TRIM39R分子のRPRドメインの結合分子である可能性が高いため、TRIM39RおよびRPRドメイン欠損型TRIM39R(TRIM39RΔRPR)発現ベクターを用いて、相互作用を確認し、RPRドメインの結合分子を同定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していなかった分子の構造解析の必要性が生じ、研究計画を変えてin silicoでの分子構造解析を行ったため、実験計画が後ろ倒しになった。平成28年度に購入予定であった物品は、使用期限や保管場所等を考慮し、平成29年度に購入することにしたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
年度単位で支出を考えると予定より大幅な変更があるように見えるが、初年度に購入しなかった物品は次年度に購入するため、研究期間全体としての使用計画に変更はない。
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