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2016 年度 実施状況報告書

利他的動機づけが認知的コントロール能力に及ぼす影響の解明

研究課題

研究課題/領域番号 16K21230
研究機関長崎大学

研究代表者

前原 由喜夫  長崎大学, 教育学部, 准教授 (60737279)

研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード利他的動機づけ / ワーキングメモリ / 認知的コントロール / 親切 / 精神的健康
研究実績の概要

本研究の目的は,他者に対する思いやりや親切心に根差した動機づけ,すなわち利他的動機づけが,ワーキングメモリや実行機能をはじめとした認知能力に及ぼす影響について実証的に検討することである。そのために,視空間性ワーキングメモリ課題において,正解すると自分が利益をもらえる「利己的試行」と,正解すると他者に利益がもたらされる「利他的試行」を設けてパフォーマンスを比較した。さらに,その利益の大きさを「0円」(無利益),「10円」(低利益),または「100円」(高利益)と変化させることによって,利他的動機づけにもとづいた認知的コントロール能力の特徴を観察した。大学生を対象とした実験の結果,利己的試行のパフォーマンスは,数多くの先行研究が示すように,無利益<低利益<高利益となった。これは自分に対する利益が期待できるときには,利益が大きくなるほどモチベーションも増大し,それに比例して認知的コントロール能力も向上したからだと考えられる。一方,利他的試行のパフォーマンスは,無利益=低利益<高利益となった。これは利己的試行とは異なり,利他的に動機づけられているときには,課題の成功に対して利益がなくても利益が小さいときと比べてそれほどモチベーションを低下させることなく課題に取り組めたことを示唆している。また,日常生活において,他者に対する自分の利他的行動に注意を当てることが認知能力や情動状態の改善に寄与しているかを調べるために,中学生に自分が他人に親切にしたことあるいは他人に感謝したことを2週間毎日最低1個ずつ記録してもらった。その結果,親切を記録したほうが感謝を記録するよりも自己効力感が大きく改善し,自己効力感の改善が大きかった生徒ほど抑うつ傾向が減少し,それが生活満足度や幸福感の向上に寄与していた。しかしながら,学業成績や知能検査課題成績の変化に関しては条件間で差は見られなかった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年度の研究成果から,利他的動機づけには利益がなくなったときでも認知的コントロール能力を低下させない可能性が示唆されたと言える。しかしながら,それを確実に言うためには,自分の利益を期待している利己的動機づけ状態のときには,報酬があるときにモチベーションを上げているのではなく,無報酬試行においてモチベーションを意図的に低下させている可能性を検討せねばならない。これは今後の検討課題である。当初計画にあった1年目の実験をすべて完遂したわけではなかったが,その代わりに日常生活における親切行動が自分自身の認知能力や精神的健康に与える影響を実験することができた。たとえ実験室で利他的動機づけが認知的コントロール能力に良い影響を与えることが示されたとしても,日常生活においてその知見が適用できるかどうか,すなわち生態学的妥当性の高い状況で結果が再現できるかどうかはわからない。そこで本研究では探索的ではあるが,日常の親切が認知機能や情動状態にどのような影響を与えるかを検証し,一定の成果を収めることができたと思われる。以上の理由により,本研究の進捗状況はおおむね順調だと言える。

今後の研究の推進方策

本年度も実験を行う予定だが,昨年度やり残した実験を当初の計画のまま実行するのではなく,1年目の研究結果を考慮して再度実験計画を練り直し,より多くのことを,より効率よく明らかにできる実験を実施したいと考えている。昨年度の研究から新たに生じた疑問点としては,①利己的動機づけ状態における低報酬試行でモチベーションが上昇しているのか,それとも無報酬試行でモチベーションが低下しているのか,②利他的動機づけは利益が見込めなくてもパフォーマンスが落ちないという現象は本課題終了後も一定時間持続するのか,そして,③利己的動機づけ条件と利他的動機づけ条件とで,課題遂行中の情動状態の変化に違いは見られないのか,ということである。これらの疑問点を一気に解消する実験を検討中である。また,2年目はADHDと利他的動機づけが認知的コントロールに及ぼす影響の検討も始める。ADHDおよび定型発達の児童生徒への知能検査の実施あるいは大学生へのADHD質問紙の実施を可及的速やかに行いたい。さらに,日常生活における自分の利他的行動が,自分自身の認知能力や情動状態,ひいては精神的健康と身体的健康にどのような影響を及ぼすかについても,引き続き実証的に検討してゆく。

次年度使用額が生じた理由

研究費を計画的に使用した結果,最終的に5円だけ余ってしまったが,5円では研究に必要なものを何も購入できないため,そのままにしておいた。

次年度使用額の使用計画

繰り越し分の5円も含めて,1円たりとも無駄にしないよう大切に使いたい。

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公開日: 2018-01-16  

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