研究課題/領域番号 |
16K21238
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
梅澤 彩 熊本大学, 大学院法曹養成研究科, 准教授 (90454347)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生殖補助医療 / 出自を知る権利 / 非匿名化 / 面会交流 / ニュージーランド |
研究実績の概要 |
2016年度は、本研究の基礎となる出自を知る権利および面会交流の法的性質について、主として、国内外における文献調査、理論研究を行った。計画段階からある程度予想されていたことではあるが、生殖補助医療当事者の出自を知る権利の法的性質および面会交流に関する国内文献はほとんど見受けられなかった。このため、前記研究内容については、次年度のフィールドワークの対象国であるニュージーランドの文献調査を中心に行った。 なお、上記調査研究の内容を補強するため、関連する研究会(立命館大学二宮周平教授(当時)主催「生殖補助医療と家族形成研究会」等)に出席し、不妊当事者・医師・臨床心理士・研究者(法学・社会学・文化人類学)等とともに議論を行い、当事者の意識や医療現場の実際、および血縁と親子関係に関する問題について、見識を深めた。このほか、研究結果の整理・課題の抽出作業にあたっては、研究会等において報告を行うことにより(日本学術会議法学委員会生殖補助医療と法分科会第23期・第3回、2016年9月19日実施、南山大学社会倫理研究所「しゃりんけんトークセミナー第2回」同年10月17日実施)、他領域の専門家(社会学・哲学・倫理学・医学等)および法学の専門家(憲法・刑法・国際私法等)からの示唆を得ることができた。 上記のような研究活動から、出自を知る権利および面会交流の法的性質・権利保障の在り方を検討するには、養子縁組における関係当事者の情報開示および交流について研究することが問題解決の糸口となるとともに必要不可欠であることが確認された。そこで、当初の予定を一部変更し、ニュージーランドにおける養子縁組法制の調査に重点をおき、出自を知る権利および面会交流に関する議論の変遷とその実際について検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前記「研究実績の概要」の通り、本研究の基礎となる出自を知る権利および面会交流の法的性質に関する文献が少なく、法的性質の検討に時間を要したことが上記評価の主たる原因である。これに加え、2016年4月の熊本地震の影響により、当初予定していた研究報告(南山大学社会倫理研究所2016年度第1回懇話会(「いのちの支援」研究プロジェクト)2016年4月23日開催)や関連する研究会への出張を中止したことから、研究の開始時期が遅れたことも上記評価の一因となっている。 ただし、上記「研究実績の概要」にも記載しているように、出自を知る権利および面会交流の性質・権利保障の在り方については、問題解決の糸口―養子縁組法制(とりわけニュージーランドにおける「1985年成人養子情報法」と社会開発省の取組み)の検討、および法律上の親子関係の成否とは相対的に自立した「出自を知る権利」の検討の必要性-が明らかとなり、2017年度以降の研究に一定の方向性を見いだすことができた。また、2017年度に予定しているニュージーランド調査における訪問先および質問項目の選定作業も順調に進んでいる。 以上のことを総合して、現在までの進捗状況については、上記のとおり評価する。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、2016年度に積み残した研究事項である出自を知る権利および面会交流の性質・権利保障の在り方等に関する研究から始める。研究成果については、関連する研究会・学会等で報告を行い、これらをふまえた上で(あるいは継続しながら)、当初の計画通り、ニュージーランドにおけるフィールドワークを実施する。 前記フィールドワークでは、生殖補助医療法制に精通している研究者(家族法・ソーシャルワーク等)のほか、生殖補助医療に係る個人情報を管理する内務省の一部門であるHART Registerの関係者等に対しインタビュー調査を行い、同国における法制度の運用実態を把握・分析する予定である。さらに、養子縁組(出自を知る権利の行使および面会交流の実施を含む)に関与する社会開発省の一部門である子ども・若者・家族課、家庭裁判所の関係者、関連する民間団体等に対しインタビュー調査を行い、出自を知る権利および面会交流の本質・権利保障の在り方についての知見を得たい。 上記フィールドワークで得られた情報については、研究会等で報告を行い、これらをふまえた上で、研究成果の紀要等への掲載を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
前記「研究実績の概要」に記載した通り、研究を開始した当初は、本研究の基礎となる出自を知る権利および面会交流の法的性質を正面から扱う文献、あるいは、生殖補助医療当事者の出自を知る権利の法的性質および面会交流に関連する文献の入手にこだわったため、図書費の支出が予定より少額となった。また、前記「現在までの進捗状況」にも記載したとおり、熊本地震の影響により、当初予定していた研究出張を中止したこと、若干ではあるが、研究開始の時期が遅れたことにより、旅費の支出についても予定より少額となった。 次年度は、2016年度に積み残した研究を継続して行うことから、これに関する図書費や消耗品等の費用が必要となること、さらに、ニュージーランド調査に加え、本研究課題に関する研究会および学会での報告が決定しており、これに関する出張旅費等が必要となることから、必要額の繰り越しを行うことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
主として、ニュージーランドにおける調査旅費、研究成果を報告するための出張旅費、関連する研究会等で情報収集をするための出張旅費に用いる。また、本研究を遂行するために必要となる文献の購入・消耗品等に使用する。
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