音響信号によって種内のコミュニケーションをおこなう種は多い。同所的に生息する種が同時に音響信号を発すると、種内コミュニケーションが阻害される可能性がある。また、他種の音響信号を盗聴し、それを利用することも考えられる。例えば、競争力の勝る種が劣位種の音響信号を頼りに限られた好適な信号発信場所を奪うかもしれない。そこで、コオロギ類を対象に、同所的に生息する種の解明と競争能力の比較、種間でのコミュニケーションの阻害、種間盗聴の有無を検証した。 その結果、奄美大島の公園内においてはタイワンエンマコオロギTeleogryllus occipitalis(以下エンマ)とネッタイオカメコオロギLoxoblemmus equestris(以下オカメ)が同所的に生息しており、エンマの方が干渉型の資源競争において優位であることがわかった。しかし、音響信号によるコミュニケーションの阻害は両種において見られなかった。これは長い年月に渡って相互作用してきた種間では互いに干渉を避ける形質が進化していることを示唆する。また、競争能力で優位であるエンマがオカメの声に引き寄せられることも、オカメがエンマの声を避けることも観察されなかった。 このように同所的に生息する種間では、互いに負の影響を減少させるような進化が生じていることが示唆された。新規に侵入してきた外来種や生息地の改変などによって、新たに出会うことになった種間では、様々な行動的、生態的な相互作用が生じる可能性がある。こういった種を今後は対象とする必要があるだろう。
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