研究課題
われわれは、これまでの研究にてΔNp63の過剰発現がOSCCの増殖に正に関与し、発現抑制が浸潤に正に関与することを報告してきた(Clin Exp Metastasis. 2014 Mar;31(3):293-306.)。しかしその分子メカニズムまでは明らかでなかった。また近年の研究により、microRNAが癌のEMTのプロセスに関与していることが示唆されている。われわれは、ΔNp63の3つのバリアントの中でも、特に転写活性が最も強いとされるΔNp63βについて下流の発現遺伝子も含めて検討を行った。研究初年度より本年度にかけてOSCCにおけるΔNp63βを介したEMTに関連するmiRNAを検索し、その発現と機能の検討を行った。まず一昨年行ったmiRNAアレイ解析の結果、ΔNp63βの過剰発現株でmiR-205が最も大きく発現していたことが明らかとなった。miR-205の発現はΔNp63の発現していない細胞株で最も低くなり、ΔNp63のノックダウンを行うと、miR-205の発現量の減少が認められた。さらにmiR-205が標的としている遺伝子を検索し、EMT関連遺伝子であるZEB1とZEB2に着目した。OSCC細胞株におけるZEB1、ZEB2の発現をreal-time PCR法・western blotting法にて検索したところ、miR-205の高発現していた細胞と比較して、miR-205の発現が低かった細胞では、ZEB1、ZEB2が高発現していた。OSCC細胞株を用いた研究から、ΔNp63βの強制発現により最も大きな発現変動を認めたmiR-205は、ΔNp63βの発現減弱に伴って発現量が減少し、直接制御しているZEB1とZEB2の発現の増加により、上皮系遺伝子の発現を減少させ、その結果EMTが誘導され、さらに遊走能・浸潤能に影響を与えることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
OSCC において、ΔNp63βはmiR-205を介してEMT関連因子であるZEB1とZEB2の発現を制御し、EMTの誘導に関与していると考えられた。われわれは昨年度これらの結果をJ Cell Physiol誌(J Cell Physiol. 2017 Nov 18.)に投稿・掲載されている。
今後の展望としては、OSCC患者血清中のmiR-205発現量と臨床病理学的所見との関連の検討や、最近の技術によりmiRNAの検出も可能になったin situ hybridization法を用いて、OSCC組織におけるmiR-205の発現の局在を検討することで、miR-205のバイオマーカーとしての有用性を検討すること、また、ZEB1、ZEB2以外のmiR-205標的遺伝子の発現と機能を検討し、OSCCにおけるmiR-205のより詳細な役割を解明することで、OSCCにおける新たな治療標的としての可能性を検討する予定としている。
予定していた国際学会への参加を見送ったため次年度使用額が生じた。今後は研究成果の国際学会への発表も視野に使用計画を建てる予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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