本研究は、喜界島諸方言の談話資料を収集し、これを研究者及び地域コミュニティが学術研究及び方言の継承活動に利用できる形でアーカイブ化、公開すること、及び、談話資料からの知見をもとに、喜界島方言の方言差について明らかにすることを目的としている。 以上の目的のため、上嘉鉄方言、志戸桶方言、小野津方言、荒木方言、中里方言を対象に、自然会話、場面設定会話、童謡の方言訳などの一次資料の収録と、人称代名詞、呼称名詞、指示詞、疑問詞、複文、助詞、文末詞、敬語における方言差を明らかにするための質問調査を行った。また、言語資料の作成を効率化するために、テキストの形態素分析及び意味注釈付与を半自動的に生成するためのツールを作成した。加えて、言語資料を公開するためのホームページを作成しており、近日中にデータを公開する予定である。 詳細として、まず、理由を問う疑問詞を用いた疑問文について、他の疑問詞を用いた場合と異なる形態統語的特徴を持つこと、さらに、その特徴に方言差があることが明らかになった。例として、理由疑問文に特有の文末接辞を用い、疑問文末助詞を用いないタイプの方言、理由疑問詞を用いた文でも文末接辞を用いず疑問文末助詞を用いるタイプの方言、文末接辞と疑問文末助詞が共起するタイプの方言が見られた。このうち、理由疑問詞と他の疑問詞との違いが顕著に観察された上嘉鉄方言について、理由疑問詞を含む疑問詞の形態統語的特徴の違いの詳細を論文としてまとめた。今後、方言差の詳細についても報告する計画である。 この他、呼称名詞(親族呼称、人名)について、1モーラ助詞が付くか否かで語末の母音長の交替を起こす方言とそうでない方言、人称代名詞の属格形と指示詞が複合した形式を用いる方言とそうでない方言など、様々な方言差を確認しており、一部はすでに学会・研究会などで報告しているが、今後論文にまとめる計画である。
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