研究課題/領域番号 |
16K21250
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研究機関 | 札幌医科大学 |
研究代表者 |
青山 智志 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (50737781)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | プロてオミクス解析 / FFPE / IHC / 病理診断 / ALT/WDLS |
研究実績の概要 |
ホルマリン固定・パラフィン包埋(FFPE)は最も一般的な組織標本保存法であり、患者の臨床情報、検査結果など様々な情報を含んでいる。一方、FFPE組織はホルマリンによるタンパク質変性があり、タンパク質研究用試料として最適でない。しかし、近年の質量分析システムの飛躍的な進歩、タンパク質抽出法の改良・改善により、FFPE組織を用いたプロテオミクス研究が端緒についている。Atypical lipomatous tumor( ALT)/well-differentiated liposarcoma (WDLS)はLiomaと形態学的に類似しており、鑑別診断に難渋することがしばしば経験される。ALT/WDLSとLipomaとの鑑別を目的とした免疫組織化学法(IHC)で有用性が報告されている分子は、MDM2とCDK4など限定的である。本研究は、ALT/WDLSとLipomaのFFPE組織をプロテオミクスの対象とし、両者の鑑別に有用な診断マーカーを同定する事を目的としている。 平成28年度は以下の実験を行い、結果を得ている。 1)ALT/WDLSおよびLIpoma 各6症例のFFPE組織からタンパク質を抽出・精製し、質量分析を行った。ALT/WDLSから734種、Lipomaから630種のタンパク質が検出された。ALT/WDLSのみから検出されたタンパク質は534種、複数症例から検出されたタンパク質は8種であった。それらから生物妥当性を考慮し2種の候補タンパク質を選定した。 2)ALT/WDLSとLipoma切除材料を用いて候補タンパク質のIHCを実地した。ALT/WDLSとLipomaの鑑別能は、それぞれ、sensitivityは95.4%および84.0%、specifityは84.0%および100.0%と良好であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、プロテオミクスにより、ALT/WDLSおよびLipomaのFFPE組織からALT/WDLSにユニークなタンパク質を複数同定した。さらに、これらについて、ALT/WDLSとLipomaのIHC鑑別マーカーとして有用な2種のタンパク質を選定した。この結果は学会にて発表した。今後は、脂肪肉腫由来の細胞株を用い、これら候補分子をノックダウンし、増殖能、遊走能、浸潤能および造腫瘍能に及ぼす影響について解析する。また、Adipogenesisを誘導した細胞株を作成し、候補タンパク質とAdipogenesisとの関連についても検討する。
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今後の研究の推進方策 |
1. IHCのより詳細な解析を行う。すなわち、腫瘍の大きさ、発生部位、予後など臨床および病理学的因子とバイオマーカー候補分子の発現との関連性を解析する。 2. 診断マーカーとして有用性が確認された分子について、脂肪肉腫細胞株を用いて増殖能・浸潤能や造腫瘍能に及ぼす影響を解析し、治療標的としての評価を行う。 1)候補分子について、PCR、ウエスタンブロット、免疫染色により脂肪肉腫細胞株での発現を確認する。脂肪細胞分化刺激による変化についても確認する。 2)CRISPR-Cas9システムを用いて脂肪肉腫細胞株で候補分子の発現を欠損させ、増殖能、浸潤能、アポトーシス、ヌードマウスを用いた造腫瘍能の変化を通常株と比較解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の計画では、平成28年度に先行研究で用いたプロテオミクスの手法を見直し、新たなタンパク質抽出法、質量分析装置を用いたプロテーム解析を行い、ALT/WDLSに特有なタンパク質の探索を継続することとしていた。質量分析器は、本学で運用されているAB sciex社のMALDI 4800 TOF/TOF analyzerに加え、より信頼度の高いデータを得るために最新の質量分析器を有する外部機関への委託を予定していた。しかし、平成29年1月に最新の質量分析装置が本学に導入されることとなり、外部委託を中止することができた。また、プロテオーム解析により選別していた候補分子の機能解析の為、次世代シーケンサーを用いた転写産物の網羅的な解析を予定していたが、解析対象である候補分子の安定高発現株樹立が遅れ、予定していた解析が困難となった。以上の理由により、未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度に検討したタンパク質抽出法と本学に導入された最新の質量分析装置を用いたプロテオミクスを行い候補分子の探索を継続する。また、候補分子の安定高発現株の樹立と次世代シーケンサーによる転写産物の網羅的解析を行う。未使用額はそれらの経費に充てる。
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